行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

お金や賞賛ではなく、行動すること自体から「やりがい」を得よう。

行動の科学(行動分析学)が教えてくれる行動の目的とは

行動には目的があります。ただその目的は、もしかすると一般的な理解からはズレたものかもしれません。行動の目的は、行動に伴って生じる変化そのものにあります。

僕たちには「欲しているもの」と「避けたいもの」があります。行動の目的はこの2つに関連したものです。

僕たちは、欲しているものを得るために行動します。避けたいものを遠ざけるために行動します。あるいは、欲しているものを失うのであれば行動しません。避けたいものを得てしまうのであれば行動しません。この4パターンが行動の目的なのです。

少し例を使って説明しておきます。

欲しているものを得るために、行動する:

例.喉が渇いている時に「水を飲む」ことで「喉が潤いが得られる」

避けたいものを遠ざけるために、行動する:

例.夏の暑い日に「喫茶店に入る」ことで「外の熱気を避けられる」

欲しているものを失うので、行動しない:

例.手に珈琲の入ったカップを持っている時、「走って移動する」と「珈琲がこぼれてしまう」(ので走らない)

避けたいものを得てしまうので、 行動しない:

例.仕事で分からないことがある時、「上司に質問する」と「怖い上司と話すことになる」(ので質問しない)

つまり行動するかどうかは、欲しているもの・避けたいものと行動との関係によって決まります。例えば、欲しているものと行動とが「獲得(得る)」という関係でつながっていれば、その行動は実行されやすいと言えます。

これが行動の目的であり、行動の理由でもあります。

行動を促す4つの理由

さて、行動の目的はより具体的には4つに分類することができます。それぞれ例を使いながら説明していきます。

報酬、インセンティブ、もの:
  • バイトをすれば「給料」が貰える
  • コンビニやスーパーで買い物すると「お菓子」が手に入る
  • ヨドバシカメラで買い物すると「ポイント」が貰える
社会的フィードバック:
  • Facebookに投稿すると「イイネ!」がつく
  • 会議で発言すると「周囲の注目や視線」が得られる
  • 仕事を頑張ると「上司や会社から評価」される
  • ブログが炎上したら「ネガティブなコメント」がついた
他の活動の機会:
  • 洗面台に移動すると「歯磨き」ができる
  • レシピを調べると「料理」ができる
  • ネットカフェに入れば「パソコンを使える」
行動内在型:
  • 大好きな「漫画の続き」を読む
  • 温泉に浸かって「リラックス」
  • お酒を飲んで「ほろ酔い気分」
  • 筋トレ中の「疲労感」

何故行動内在型の理由を重視するのか

外からの働きかけが必要な行動

4つの目的のうち、最後の行動内在型のものはやりがいや充実感といった意味では最も重要なものになります。

行動内在型以外の3つは、基本的に「行動の外」からの働きかけが必要となります。インセンティブであれば、それを与えてくれる存在が必要です。社会的フィードバックは、当然フィードバックしてくれる存在無しにはありません。他の活動の機会は、全く別の行動を動機としているようなものなので、対象の行動に内在するものではありません。

行動の外からの働きかけが必要ということは、外から働きかけられる状態が整っていないと、行動の目的として有効に機能せず、行動を促すことができません。

行動することそれ自体に動機がある

一方、行動内在型であれば、外からの働きかけは不要です。行動すれば、それで変化が得られるので、とてもシンプルです。欲しているものを得るための条件がとても緩いのです。

行動内在型の目的に支えられた行動は、良くも悪くも「止めるのが難しい」行動とも言えます。外からの働きかけによる行動ではないため、工夫をする余地が少ないです。例えば、小説を読んだりお酒を飲んだりする等がそうですが、単に行動するだけで欲しているものが得られるのであれば、それを止めるのには苦労することでしょう。

もし不適切な行動が行動内在型の目的で促されているなら、あまり良いことではないです。行動を止めるために、少々無理をする必要があるかもしれません。お酒を止めるために家にあるお酒を全部捨てたり、酷い場合は専門の病院に入院したりすることもあります。

反対に、人生や日常をより良いものにしたり、何かの目標達成に貢献する行動が、行動内在的な理由によって促されるのであれば、それはとても有利なことになるでしょう。例えば、自分の好きな分野の本やWebの記事は、放っておいても次から次に読んでしまいます。もしそれが目標達成に貢献するのであれば効率が良さそうですよね。

価値の話をしよう

人生や日常をより良いものにする行動内在的な理由のことを、特に「価値」と呼びます。価値との接触によって、僕たちは人生に生きがいを感じたり、仕事にやりがいを感じたりすることになります。価値との接触は、日常の質を上げたいのであれば欠かすことのできない大切な要因です。

価値とは何か?

では、価値とは何でしょうか。価値は次のように定義されます。

  1. 継続的な行為に関するものである
  2. その行為がもつ性質によるものである
  3. その性質は「望ましい」性質である

継続的な行為とは、人生において繰り返し何度も実行できるもののことを指しています。一度しかやらないことや、行為ではないものは価値にはなりません。

次に、その行為が持つ性質というのは「好ましい行為の質」についてのものです。例えば、あなたが「話をする」ことを欲しているとしましょう。話をすることは継続的な行為なので、1つ目の定義を満たしています。加えて性質まで踏み込むなら、「どのように話をすることなのか?」についても答えなければなりません。人によっては「笑顔で話すこと」を欲するかもしれませんし、「集中して話すこと」や「意見を戦わせるように話すこと」を欲するかもしれません。これが性質です。

最後に、上記の性質は「望ましい」ものであることが求められます。望ましいとは社会的常識に照らし合わせて望ましいということではなく、あくまで行為の主体である本人にとってどうか、ということです。正当化する必要もありません。本人がそれを望ましいと感じているなら、それでいいのです。

行動すれば価値を得られる

以上3つの条件が満たされれば、それは価値と呼んでも良いものになるでしょう。価値は行動内在型の変化でもあります。つまり、価値を見出すことができれば、僕たちはそれに関する行為をするだけで価値に接触することができます。

価値との接触は僕たちの人生を充実させてくれたり、やりがいを感じさせてくれることでしょう。

工夫して行動すれば、やりがいに触れる機会も増える

行動しなければ価値の存在にも気づけない

価値は行動内在的なものであるが故に、行動してみなければその存在に気づくことができません。

行動することに消極的な状態は、行動内在的な理由に触れる機会から遠ざかることでもあります。行動内在的な理由で行動できないなら、他の3つの理由(1.報酬・インセンティブ、2.社会的フィードバック、3.他の活動の機会)によって行動を促す必要があります。常に行動の外から働きかける工夫が必要になりますので、長期間に渡って行動を継続するのはちょっと大変かもしれません。

外からの働きかけという工夫を活用する

行動内在的な「価値」を今後の行動に活かすためにも、何度となく対象の行動に取り組み、価値との接触を試みる必要があります。そうして実際に価値と接触することができたなら、以降は行動内在型の理由によって、自然と行動が増えていくことでしょう。

ただ、もしかしたら、価値と接触するまでに一定の積み重ねや訓練が必要で、時間がかかってしまうかもしれません。この場合は、自然にしていても価値と接触するところまでなかなか辿りつけません。途中で挫折してしまうことが多いです。

ですので、最初の段階ではある程度強制的にでも行動できる状況を作っておくのがいいでしょう。行動は環境や状況に従います。行動の外から働きかける3つの理由(1.報酬・インセンティブ、2.社会的フィードバック、3.他の活動の機会)を使って、行動せざるを得ない状況を作ればいいのです。

日常を価値と共に歩む

そういった工夫をすることで、価値と接触することができたなら、以降、工夫を必要とせずに行動できるようになるかもしれません。工夫が必要になるにしても、ほんの少しの工夫で済むかもしれません。 いずれにせよ、行動を継続するにあたってとても有利な状況になります。

また、継続に有利なだけでなく、価値との接触は人生や日常の質を向上させてくれますので、そういった意味で十分に取り組んでみる意味のあることだと言えます。