行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動分析学流の「やる気スイッチ」を入れる3つの工夫

やる気が出なくてなかなか行動に取りかかれないことがあります。割と頻繁に。やる気を出したり、モチベーションを高める方法があれば、もっと行動できるはず・・・。

でも本当に必要なのはやる気を出す方法ではなくて、やる気を感じられる時のような「行動しやすい環境」を作ることです。

そもそもやる気は行動の原因ではありません。行動の法則に沿って真の原因を読み解き、それに合わせた工夫をすることが必要になります。そうやって「行動しやすい環境」を作ることができたら、結果してやる気も感じられるようになります。

やる気ではなく、行動から考えるのが「行動分析学的やる気マネジメント」です。

やる気が安定しない問題

僕たちに起きている「やる気が出ない問題」

エピソード1:一日の終わりになってようやく動き始める

今週のセミナーで使うテキストを作らなければならず、すぐに作業に取りかかりたいのですが、いざ机に座ってもダラダラとYoutubeやニコニコ動画を観たり、Web漫画を読んだり、Amazonで欲しいものを探したり・・・。たっぷりと現実逃避し、一日の残り時間が少なくなってきた頃、ようやく作業に手をつけはじめます。

とはいえ、殆ど時間はありませんので思った程、進捗はありませんでした。

エピソード2:気分が乗らなくて仕事を始められない

朝起きてから仕事に取りかかろうとするのですが、どうにも気分が乗らないのです。やる気が出てきません。気分転換のために珈琲を淹れたり、ニュースを読んだりするのですが、やはり仕事をするような気分にならないのです。

やったことはせいぜいFacebookで来たメッセージの幾つかに返信しただけで、気がつくと一日が終わってしまっていました。

エピソード3:〆切間際まで追い詰められるとようやく動く

時間に余裕がある時はダラダラしてしまうので、良く〆切間際まで追い詰められてしまいます。次の日のセミナーのテキストが殆どできていないとか、打ち合わせ用の資料にまだ全く手が付いていないとか、よくあることでした。当然、間に合わせるために必死になります。

前日から必死になったところで、すぐに終わるわけではありませんので、完成するのは大抵日が跨いだ後です。寝る時間も無くなります。そうやってどうにか間に合わせるものの、全てが終わった頃には疲労でボロボロ。一日寝たところで疲労感はなくならず、やる気もでません。また今日もダラダラと過ごしてしまいました。

本当はすぐに行動できる自分でありたい

前倒しで仕事を終えられるスマートな自分

Youtubeを観たり、Web漫画を読んだりするのは楽しいです。ええ、でも本当は分かってるんです。やるべきことをさっさと終わらせて、その後に存分に楽しめばいいってことくらいは。順番を逆にできれば、きっと今よりも快適な日常になるはずなのです。

やるべきことにすぐに取りかかり、前倒しで仕事を終えられるスマートな自分。カッコいいし、楽だろうし、仕事の質だって上がりそうです。

頭では分かっているけど、できないから困っているんだ

「じゃぁ、そうすればいいじゃないか」という考えが浮かんできますが、一方で「そんなことは分かっている。分かっているけど、できないから困っているんだ」とささやいてくる本音の自分が居ることにも気づきます。

なぜ僕たちは思ったとおりに行動することができないのでしょうか。やる気さえコンスタントに出てくれれば、行動できそうな気がします。だから、やる気を出す方法を知りたいのです。

やる気が出れば・・・は個人攻撃の罠に嵌まっている

「やる気がないから行動できない」は間違い

でも、実はやる気をどうにかしようと思っても、この問題は解決しません。やる気が出れば・・・という発想は、既に罠にはまっています。行動できないのはやる気がないからではないのです。 行動の原因をやる気に求める考え方は、「循環論」といって行動の問題を考える際に嵌まりやすい罠の一つです。

循環論の罠

循環論とは、例えば次のようなものです。

  • 行動できないのは何故か。それは、やる気がないからだ。
  • やる気がないと分かるのは何故か。それは、実際に行動できていないからだ。
  • では、行動できないのは何故か。それは・・・(以下、ループ)

原因と結果が入れ替わりながら延々とループしているのが分かると思います。結局、何が行動の原因なのか良く分からなくなってしまいます。

「やる気がない」という表現は行動できない理由を述べているように見えて、実は「行動できないでいる状態」を別の言葉で表現し直しただけに過ぎません。行動の原因ではないのです。単なる言い換えなのです。

やる気を感じられて、行動もできているのはどんな時

行動できていること(または今まさに行動しようとする瞬間)を自覚すると、やる気も同時に感じられることがあります。あるいは、同じことをしていても、最初はやる気を感じられなかったのに、作業の終わりが見えてくるとやる気が出てくることもあります。あるいは、冒頭の例のように、一日の残り時間が少なくなるとやる気が出てくることもあるようです。

やる気は結果として感じるもの

結局のところ、やる気とは「何かの結果として」感じるもののようです。やる気が出てから行動するということではなく、行動できるようになった後や何か環境変化が起きた後に、それに引きずられるようにやる気が出てくることもある、というのが実際のようです。

やる気とは何か、その正体を読み解く

やる気の出る時、出ない時を分析してみる

一日のはじめにやる気を感じられないのは

一日の始めにやる気が出ないのに、終わり頃になるとやる気が出てくるのは何故でしょうか。その違いを行動分析学的に見ていきます。

一日のはじめにやるべきとを放置して、Youtubeを観たりWeb漫画を読んだりするのは何故でしょうか。

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これはABC分析といって、行動に伴ってどのような一連の変化が生じているかを表現したものです。注目すべきは「C:結果」のところです。(↑)が記述されているものは行動を促す要因になるし、(↓)が記述されているものは行動を止める要因、(−)は行動に殆ど影響を与えない要因となります。

こうしてABC分析してみると、Youtubeを観てしまう理由は明らかですよね。

一日の終わりにやる気を感じられるのは

今度は一日が終わりに近づいてきて、やる気が出てきた場面を分析してみましょう。

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先ほどとの違いが分かるでしょうか。一日が終わりに近づき残り時間が少ないので、時間を浪費することが行動を止める要因として働き始めました。それに伴い、「Youtubeを我慢して仕事をする」という文脈ではなくなり、スムーズに仕事に取りかかれるようになっています。

やる気の行動分析学的定義

仕事をやろうとした瞬間に気が重くなり、やる気のなさを感じる

上記の分析例をみると、一日の始めにYoutubeを観てしまうことは、行動科学的に自然なことだと分かります。何も行動を止める要因がありません。意図していることとは違うかもしれませんが、ある意味「やりたいことをやっている」状態です。

反対にやるべきことをやろうとすると、Youtubeを我慢することになります。少なくとも、仕事をやろうとした瞬間、Youtubeを観る機会を一時的に失うことになります。Youtubeを観る機会を失うのは(↓)になりますので、ネガティブな体験になってしまいそうです。それでも無理して仕事をしようとするから、そこで気の重さだとか、やる気のなさを感じてしまうのではないかと思われます。

自分の意図と実際の行動しやすさとの「ギャップ」に苦しむ

以上を踏まえると、「自分の意図するやりたいこと・やるべきこと」と、「環境によって自然に促されるやりたいこと・やりやすいこと」とにギャップがある場合に、僕たちは「やる気が出ない」と感じてしまうのではないでしょうか。

僕たちの意識は「自分の意図するやりたいこと」に向いていますが、それ故に、そう行動しようとした時に遭遇するネガティブな体験(Youtubeを観る機会を失う等)が、僕たちの気を重くするのだと考えられます。

行動分析学的やる気マネジメント

自分の意図と行動の環境とを一致させる

そうすると「やる気と行動のマネジメント方針」は、自ずと定まります。理想的には自分の意図している行動と、環境によって促される行動とを一致させればいいのです。もちろん、環境の全てをコントロールすることは難しいですから、完全な一致はほぼあり得ないでしょう。

しかし、そのギャップが少なくなればなるほど、意図通りに行動しやすい環境ということになります。試してみる価値は十分にあるでしょう。

ターゲット行動を実行しやすく、ライバル行動を実行しにくく

マネジメントの際はターゲット行動とライバル行動の2つに分けて考えると、工夫しやすくなります。

ターゲット行動が「自分の意図するやりたいこと・やるべきこと」です。ライバル行動は「ターゲット行動を邪魔する行動」で、今回あげている例だとYoutubeを観たり、Web漫画を読むことが該当します。

環境を調整する場合は、ターゲットを実行しやすく、ライバル行動を実行しにくくすることを考えるといいでしょう。具体的にどうするは、これから述べます。

やる気と行動をマネジメントする3つの工夫

作業環境の工夫

ここからは実際に僕が試して効果のあった工夫や他の人が試して上手くいった工夫を、参考例としてあげていきます。最初にお伝えするのは、物理的に作業環境を調整する工夫です。

例1:スマホを作業場所から離れたところに置く

例えば、パソコン作業中についついスマホで将棋をしたり、小説を読んだりしてしまうとしましょう(僕のことです)。スマホには時間をつぶすアプリがたくさんありますので、現実逃避には持ってこいです。それがパソコンの横においてあれば、手が伸びてしまうのは当然のことでしょう。

そこでパソコンで集中して作業したい場合は、スマホを寝室に置いておくことにしました。こうするだけでスマホによる現実逃避は激減します。わざわざ寝室に移動してまでスマホを使おうとはしないものです。

例2:ネットの使えない喫茶店で仕事する

スマホが邪魔をしなくても、パソコンがネットに繋がっていればいつでもYoutubeを観たり、何か興味のあるものを検索したりできてしまいます。こういう場合は、ネット環境のない喫茶店などへ作業場所を変えてみるといいでしょう。

ネットに繋がっていないだけで、現実逃避の選択肢は驚くほど減ってしまいます。こうなるともう、仕事をするしかないのです。

例3:アプリを使って必要なサイトのみアクセスを許可する

そうはいっても作業自体がネット環境を必要とすることもあるでしょう。その場合は適当なアプリをパソコンに入れて、必要なWebサイト以外は一定時間繋げなくしてしまう方法もあります。

MacであればRescueTimeというアプリの「Get Focused」という機能を使うと実現できます。

人の視線を使った工夫

物理的な作業環境を整える方法以外にも、「人の視線」を使う方法もあります。

例4:公共の空間では音を出しにくい

例えば図書館などの公共の空間で作業すると、音の出るYoutube等は閲覧しにくくなるでしょう。注意されたり、睨まれたりするでしょうから。同じ空間を共有する人たち次第で、やりにくくなる現実逃避もあるのです。

例5:アルバイトを雇う

これは僕の例ではないですが、独立起業した人から、アルバイトを雇うことで仕事のペースを上手く調整したという話を聞きました。

どうしてもアルバイトが必要というわけではなかったようなのですが、アルバイトという存在が仕事環境内にいるだけで、現実逃避の行動が抑制されたり、やるべき仕事に取り組むことが促されたりするようです。

例6:打ち合わせしながら作業する

今度は僕自身の経験です。なかなか作業が進まずに先延ばしにしていたことを、ビジネスパートナーとの打ち合わせの場で一緒に作業させてもらいました。当然、ビジネスパートナーの見ている前で現実逃避などできませんし、作業が進んだら確認してもらうことで相応の反応が得られます。

時間を合わせないといけないので常にできるわけではないですが、現実逃避を抑制し、やるべき行動を促すのに有効ですので、作業の山場になりそうな所で使ってみると良いかと思います。

行動契約を使う

行動契約とは

環境的にも人の視線的にも工夫するのが難しいようであれば、行動契約という方法もあります。

行動契約とは、約束した目標を達成することができなかった場合、ペナルティを負うというものです。ペナルティの内容が十分に嫌悪的なものになっていれば、約束を守ることに十分な理由が生じるため、最終的にはやるべきことを終えることができます。

〆切をこまめに分割できる

行動契約を使うと、〆切をこまめに分割することができるようになります。

従来は前日になって追い込まれてから必死になっていたことを、行動契約を使って例えば一週間前や三日前に小さな〆切をつくり、擬似的に〆切前状態を作ってしまうのです。そうすると〆切前の負荷が2〜3回分に分散されますので、全体的には随分と楽になります。

毎週のパフォーマンスを設定する

あるいは行動契約を使って、毎週、一定のパフォーマンスが発揮できるように設定することも可能です。ある程度、コンスタントに行動を積み重ねていきたい場合に、長期的な行動契約を結び、毎週チェックするようにしておくと効果的。当然、毎週の約束を守れていなければペナルティがあります。

実際、この方法のおかげで前倒しに終わらせられる作業がかなり増えました。僕はこれを「時間割ゲーム」と呼んでいますが、もし興味があるようでしたら下記の記事も読んでみてください。

www.behavior-assist.jp

まとめ

やる気が出ないから行動できないは間違い

やる気が出なくて行動できない・・・と感じることがあります。さっさと行動すればいいことは分かっているけど、やる気が出なくて行動できないから困っています。

でも、本当にやる気がないせいで行動できないのでしょうか。行動分析学によれば、やる気を行動の原因とする考え方は「循環論」といって、原因の誤った捉え方です。つまり、やる気と行動とはあまり関係がないのです。

自分の意図した行動と実際の行動しやすさとのギャップに苦しむ

結局、「やる気がない」とはどういうことかというと、

  • 自分の意図しているやりたいこと・やるべきこと
  • 環境が自然に促すやりたいこと・やりやすいこと

の間にギャップがあるために、いざ行動しようとした時にネガティブな体験が生じ、その状態を表現すると「やる気が出ない」となってしまうのだと思われます。

ですので、自分の意図と行動の環境とを一致させる工夫をすることで、やる気が出ない問題は解消されます。

やる気と行動をマネジメントするための3つの工夫

やる気と行動をマネジメントする工夫は、大きく分けて3つになります。

  1. 物理的に作業環境を変える工夫
  2. 人の視線を活用して意図通りに行動しやすくする工夫
  3. 行動契約を使う

これらはどれか一つだけを使うというよりも、状況に合わせ、組み合わせて使うと効果的です。本記事では具体例を紹介しましたので、そのまま試してみてもらってもいいですし、例をヒントに自分なりにアレンジしてもらってもいいです。その中から、自分なりの得意技が得られるといいですね。