行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

切羽詰まってからでは、効果的に行動できない。

Q.
お金持ちの人よりもホームレスの人の方が行動力があるのでしょうか。切羽詰まった方が人は行動できるような気がします。

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A.
確かに切羽詰まることで行動できることはあります。が、その行動はあまり機能的ではないかもしれませんね。

解説:欠乏によって行動が固定化され、中長期的に効果のある行動ができなくなる

辞書を引いてみると行動力とは「何かを思い立った際に、実際に行動を起こし、それを実現する力」なのだそうです。一般的な文脈では、「思い立つもの」は願望や目標、やってみたいこと等だと思います。

つまり、行動力とは「願望や目標、やってみたいこと等を思い立った際に、実際に行動を起こし、それを実現する力」といったところでしょうか。

今回の質問に答えるには、切羽詰まることが上記定義の行動力を高める方へと作用するかどうかを考えることになります。

おそらく質問者は、切羽詰まった状態のある程度究極的なものの例として、ホームレスをあげたのでしょう。

切羽詰まった状態を少し抽象化すると「欠乏」と言い換えられます。欠乏とはお金や時間、人間関係、健康といった、「人が安定的に社会生活を営むために必要なもの」が著しく不足している状態です。行動分析学的に言えば、強力な確立操作が生じている状態。

欠乏に陥ると、その欠乏しているものを強く欲するようになりますので、欠乏を埋める行動はとても促されやすいと言えるでしょう。

ホームレスの方の状況については詳しく知りませんので、想像というかちょっとググった程度でしか分かりませんが、例えば今夜寝る場所がなければ「寝る場所」を確保する行動が優位になるでしょう。その結果、ネットカフェで寝泊まりという選択になるのかもしれません。

目先の欠乏を埋めようとする、という意味では確かに行動に積極的です。切羽詰まって行動しているように見えます。

しかしながら、問題はそれらの行動が欠乏からの「中長期的な回復」につながっているかどうかでしょうか。

ホームレスの方の行動の環境は、衣食住を安定的に確保できている方と比べて厳しくなっていると考えられます。厳しさをもう少し具体的にいうと、「ホームレス的状態から抜け出そうとする行動が強化されにくい、あるいは弱化されやすい」状態なのではないかと想像します。

切羽詰まっているので、今日の食事、今夜の寝床などを確保する行動はできるかもしれません。が、中長期的に状況を改善する行動は、かなりハードルが高くなっているのだと思います。

結果どうなるかというと、行動のレパートリーが「今日をただ生きること」に固定化されやすいのではないかと。

切羽詰まって行動はできるかもしれませんが、きっと冒頭の行動力の定義からは大きく離れたものになりそうですね。

一方で、じゃぁ金持ちなら行動力があるのかといえば、一概にはそうとは言えなさそうですが(´д`)

ちなみに欠乏に陥ってしまった場合は、公的機関や他の人の力を借りつつ、「中長期的に欠乏から回復すること」と「有効な行動レパートリーを増やすこと」を地道に積み重ねると良いと思います。