行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

頭がいい人の考え方が手に入る訓練:スマートノート

少し考えることが得意な人は、物事についてそれらしい結論を出して「分かった気」になることがあります。その結論は抽象的に表現されていることが多く、それ故、結論自体に誤りはありません(ex. うちの社長は○○が分かっていない)。

しかし、抽象的に表現された結論からは、現実のややこしい諸条件がそぎ落とされているため、いざ実際に何かを改善しようとする場合には役に立ちません。いい気になって終わり、というパターンが殆どです(←これも抽象的な表現・・・)。

実用的な「考える力」を手に入れるためには、「応用力の高い抽象的な思考」と「行動へ落とし込みやすい具体的な思考」の両方を使いこなす必要があるのです。

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中途半端に頭がいいと抽象的に考えて分かった気になる

分かった気になってしまう抽象的思考の罠

何かについて考えることが無駄になったり、足を引っ張ってしまうことがあります。

人は抽象的に物事を考えることができますが、そこそこ考える力を持っていると抽象的思考を周囲より上手く使うことができます。それ自体は悪いことではないのですが、しばしば厄介な勘違いを生じさせることがあり、注意が必要です。

僕自身、覚えがあるのですが、抽象的な思考ができると「物事を分かった気になる」「本質的なことをいっているつもりでまるで役に立たない」といった罠にはまりやすくなります。

例えば、所属している会社の経営者に対して「うちの社長は○○が分かってないからダメなんだよな」とか、「いままでのやり方の真似事ばかりで価値を創造できてないよな」とか言ったり考えたりしていました。

もしかしたら間違ってはいなのかもしれません。でも、それが役に立つ考え方かというと、具体的に何をどうすればいいかは分かっていないので改善の役には立ちません。自分の気分が良くなるだけなのです。思い出すだけで身もだえてしまいます。痛々しいです。

具体性がない思考はとてもラクチン・・・でも机上の空論になる

抽象的に考えると、現実の諸々の制約を無視することができます。あるいは想定外のケース、例外的なケースを考えなくて済みます。あるいは実際の運用はどうなるのか、労力やコストはどうなるか、時間はどれくらいかかるのかといったコトも考えなくて済みます。

やってみると分かりますが、現実を踏まえた上で具体的に考えるというのは、とても負担のかかることです。だから、抽象的に考えて何やら良さげな結論が出ると、それに飛びついて思考停止します。考えていることが間違いというわけではないので、何だか分かった気になって一人悦に浸るわけです。

現実をみていない抽象的な思考は、机上の空論です。僕たちの日常の中で役に立つことは、殆どありません。

抽象と具体を行き来して頭の中を再構成し続けよう

具体的思考だけでは応用力が得られない

では具体的にだけ考えればいいかというと、そういうわけでもありません。具体的にしか考えられないとしたら、物事と物事の共通点を見出せないため、応用力が著しく低下します。学んだ知識を活用することもできなくなります。

一を聞いて十を知る、という言葉がありますが、あれは抽象的な思考の恩恵といえるでしょう。目の前の情報の性質を見抜き、それと類似した性質を持つ他の情報との関連を見出し、新たな見解を持ってその情報を捉え直すといったことは、抽象的に考えられるからこそできることです。

結局のところ抽象的に考えることも、具体的に考えることも、どちらも必要なのです。抽象と具体とを行ったり来たりしながら、頭の中にある様々な情報を再構成し続けるといいのです。

抽象から具体をシームレスに繋いで応用力を発揮しよう

抽象的思考によって目の前の物事の重要な部分に気づき、そこに他の情報との関係性を認識し、応用することを思いつきます。そのようにして決めた方針を実行するために、具体的思考を使って実行可能な行動へと落とし込むことができれば、僕たちの持つ応用力が現実世界で役立ち始めます。

例えば、プレゼン技術のセミナーで、参加者に伝わりやすいスライドのまとめ方という知識を得たとします。抽象的に考えることができると、これを「相手に重要なことを伝えるための情報の組み立て方だ」と捉え、情報を伝えるあらゆる場面に応用できることに気づきます。

その気づきを実践するために、「ではブログを書く前に、伝える情報をこの方法で組み立てておこう」と思いつき「そのための書式を作ってみよう」という行動へと落とし込むことができます。

目の前の情報を柔軟に活用することができるのです。

スマートノートを続けるのが良い訓練になる

抽象的思考と具体的思考のどちらも使うためには、訓練が必要です。抽象度のレベルを上下させながら、一つのテーマについて考えてみるといいでしょう。

僕の知る限りでは、そのための訓練に最も使えるのが「スマートノート」という方法です。レコーディングダイエットやオタキング等で有名な岡田斗司夫さんのメソッドです。

あなたを天才にするスマートノート

あなたを天才にするスマートノート

抽象的思考と具体的思考を同時に訓練する5つのステップ

スマートノートは基本的にはノート術なのですが、その中に「一つのテーマについてどのようなプロセスで考えればいいのか」という思考訓練の方法があります。ざっくり説明すると下記の手順です。

  1. これから考えるべきテーマを設定します。
  2. テーマについて「何故そうなっているのか?」を掘り下げる。これが答え(=抽象的な結論)だと思えるところまで、何度もWHYを問いかけながら掘り下げていきます。
  3. 答えが出たら、今度は「ではどうするのか?」という解決方法を模索します。ステップ2でテーマに対する理解が深まった上で、解決方法を考えているのがポイント。「ではどうする?」という問いかけも、複数回繰り返します。ある解決策Aが浮かんだとして、その解決策Aを実行するために「ではどうする?」と考えるわけです。思考がどんどん具体的になります。
  4. 何故?とどうする?の2つを考えた上で、次に「自分の経験の中でこれと似たものは何か?」を考えます。こうすることで、目の前のテーマについて考えてきたことと、自分の他の経験とをリンクさせて捉えられるようになります。新しい視点や具体的手段のヒントにもなります。
  5. 最後に「一般的なことでこれと似たものは何か?」を考えます。ステップ4と同じ効果がありますが、検索対象が自分の経験ではなく世間一般になっている点が違います。

スマートノートを使った訓練によって実用的な思考プロセスが身に付く

このようなプロセスで一つのテーマについて考えることを繰り返すと、自然と抽象と具体とを行ったり来たりすることになるので、とても良い訓練になります。抽象的な結論で終わりにせずに、具体的で実行可能な行動を考える癖付けができます。

またそれだけでなく、頭の中にある情報も再構成されていきますので、何か課題を抱えた時にそれと関連させて使える情報が蓄積されていくようにも感じられます。応用力が高まるというのでしょうか。そういうメリットもありそうです。

上記プロセスで考えることを習慣づけしてみると、実用的な思考プロセスを手に入れやすくなります。

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まとめ

本記事でお伝えしたことは、次の3点です。

  1. 中途半端に抽象的な思考に頼ると、物事を「分かった気」になってしまい実用的な活動へと辿りつく前に思考停止してしまう。一方で具体的に考えるだけだと、今度は応用力が失われしまう。
  2. 抽象的思考と具体的思考の両方を活用できると、目の前の情報から柔軟に思考を展開・発展させることができ、しかもそれを具体的な行動へと落とし込めるようになる。人の持つ思考の応用力が実用性を持つようになる。
  3. スマートノートで紹介されている思考メソッドを習慣的に実践すると、抽象的思考と具体的思考の両方を使いこなすためのトレーニングになる。