行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

失敗によって失われたやる気を再び取り戻すための3つの質問

ある経験を次に活かす。これだけを聞けば、さぞかし良いことのように思えるのではないでしょうか。しかし、この思考の働きがしばしば僕たちの足を引っ張ります。

せっかく行動したのに失敗してしまった。期待外れの結果だった。

その経験は僕たちのやる気を奪い、次のチャレンジへの意欲を削ぎます。次もまた期待外れの結果になるだろう…そんな物語の中に生きている限り、僕たちに”次”はありません。

ならば、もっと役立つ考え方ができるように思考の傾向を変えればいい…そう考えるかもしれませんが、そもそも僕たちは経験を活かそうとしているのです。役立つ考え方をしようとしているにも関わらず、足を引っ張る物語になってしまっているのです。

僕たちが再びやる気を取り戻して、次のチャレンジに挑むことができるようになるためには、物語の内容を変えるのではなく、物語との関係を変える必要があるのです。

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期待外れの結果は僕たちにどう影響するのか?

頭では分かっているけど、どうしても行動できないでいる

行動したのに期待外れの結果だと、残念な気持ちになりますよね。しょんぼりへにょんってやつです。期待外れだったのだから、仕方のないことです。

しかし問題はその後。

行動しても上手くいかないことなんて、割とよくある話です。そこで立ち止まるのではなく、またすぐに次のチャレンジをすべきなのです。行動すれば今度は上手くいくかもしれません。可能性は行動とともにあります。

…と、頭では分かっているのです。ええ。しかし、どうも実際には次のチャレンジになかなか取り掛かれません。また期待外れの結果になりそうで行動してもムダなように思えてしまうのかもしれません。

これが他人事なら「次の結果がどうなるかはやってみないと分からないでしょ」と気軽に言えるのですが、自分のこととなると次のチャレンジも期待外れの結果になることが当り前のように感じてしまいます。

「次のチャレンジも期待外れの結果に終わる」という物語

このような思考の働きのことを「認知的フュージョン」といいます。まだ起こっていない未来の事や、すでに終わってしまった過去の事などを、いま現在の行動や自分自身と強固に結びつけます。

時空を超えた出来事を現在と結びつけることで「次のチャレンジも期待外れの結果に終わる」という物語を作り、自分はその物語の中で生きているのだと錯覚します。その錯覚は非常に巧妙にできていて、まるで現実そのものであるかのように思えるのです。まるでマトリックスの世界。

この錯覚から抜け出さない限り「次のチャレンジも期待外れの結果に終わる」という物語に沿ってしか活動できなくなるのです。期待外れの結果になることが予想されるなら、当然、行動する気にはなれないでしょう。

1〜2度の失敗が僕たちのやる気を奪ってしまうのは、こういった認知と行動のメカニズムが作用した結果なのです。

僕たちは常に経験を次に活かすために”考えることをしている”

役に立つ物語もある

認知的フュージョンは必ずしも悪いものではありません。

こんな例だとどうでしょうか。あるサンドイッチ屋さんでサンドイッチを作ってもらいました。美味しくて満足度が高かったのですが、ピクルスが入っていたのが唯一残念ポイント。次回はピクルスを抜いてもらおう、と決意しました。

この場合、僕は「ピクルス抜きで注文すれば、サンドイッチをもっと美味しく味わうことができる」という物語の中に生きています。そしてこの物語は現実と照らし合わせると妥当なものであり、僕自身の未来の体験をより良くするのに役立つものと思われます。

このように「役に立つ物語」もあるのです。

経験を活かそうとしてみたら、結果として「そういう物語」になった

そもそもこういった思考は「経験を活かすことで不都合な結果を避け、望ましい結果を得る」という働きを持っています。ただそれがどういう文脈で働いているかによって、役に立つ物語になることもあれば、足を引っ張る物語になることもある、ということなのです。

だとしたら「常に役に立つ物語」になるように思考の傾向を調整するといいように思えます。しかし、なかなかそうはいきません。

なぜなら僕たちは単に経験を活かそうとしているだけだからです。常に役に立つだろうという前提で考えているのです。にも関わらず、”結果として”役に立ったり、足を引っ張ったりする物語に”なってしまっている”のです。

物語の登場人物から物語の読み手へ

できるのは「気づくこと」です。

僕たちにとって重要なのは、自分の目的や理想の実現に向けて活動し、努力し、最終的にはそれを成し遂げることでしょう。だから経験を活かそうとする思考の働きが、もし足を引っ張るものであるならば、その働きの影響から抜け出す必要があります。

僕たちは物語の中で生きているのではなく、実際に活動する現実に生きているのだということに気づくのです。マトリックスの世界から目覚めたネオのように。

マトリックスから目覚めても、マトリックス自体がなくなるわけではありません。ただ目覚めたネオはその影響下から抜け出すことができた、というだけ。

物語も同じ。僕たちの思考は相変わらず次から次に物語を生み出していることでしょう。それでも物語の示すものとは違う行動が選べるのです。そのことに気づくことができるかが鍵を握っています。

3つの質問を使って機能的活動の準備を整えよう

物語の影響下から抜け出し、現実とともに機能的な選択をするために、次の3つの質問が役に立つことでしょう。

質問1「いま何を考えているのか?頭に浮かんできたのはどんな言葉なのか?」

僕たちの頭は思考マシーンのように次から次に物語を自動で生産します。その生産の仕方は巧妙なので、物語が作られていることにすら気づきません。認知的フュージョン下の僕たちにとって、物語は現実と全く同じものであり、物語に沿って行動することはあまりにも当り前のことなのです。

だからまずは思考マシーンの活動に気づくことから始めましょう。

期待外れの結果のせいで何だかやる気が出ない、行動できそうにないというとき、あなたの思考マシーンはどんな物語を綴っているでしょうか。頭に浮かんできた言葉を書き出したり、声に出したりしてみてください。

最初は「また期待外れの結果になる」という前提でいたのが、思考に気づくと「また期待外れの結果になると”考えている”」という捉え方に変わります。更には「また期待外れの結果になると”考えていることに気づいた”」という視点が得られるかもしれません。

「○○である」ではなく「○○であると考えている」や「○○であると考えていることに気づいた」という思考への見方・捉え方は、物語の登場人物としての視点ではなく、物語を俯瞰する立場(小説の読み手のように)での視点なのです。

物語は物語の読み手の行動をコントロールできません。僕たちはその物語を読みつつも、物語とは全く関係ない行動をすることができるはずです。

質問2「これからどう行動することが、いまの自分の目的や理想の実現に役立つだろうか?」

物語の読み手としての立場が得られたなら、これからの行動について考えてみましょう。物語が綴られた本を手に持ちつつも、そこから視線を外してこれからの現実世界での行動を考えることができます。

期待外れの結果だった経験から、今後に役立つ妥当な情報が得られるかもしれません。役立つ行動を探すという文脈においては、有効な思考になる可能性が高いです。あるいは期待外れの結果をもたらした行動について、少し客観的に評価してみてもいいかもしれません。改善点が見えてくる可能性があります。

それを踏まえて、これからやるべき行動を具体的に考えてみてください。

行動は具体的である必要があります。十分に具体的であることを検証するための方法に、ビデオクリップ法というものがあります。

具体的に表現された行動は、その行動を実行している様を映像として写すことができます。抽象的な表現になっていると映像に写すことがでいません。

例えば「ダイエットする」や「お金を稼ぐ」「出版する」という表現では、どのような動作が映像に写っているのか分かりません。

これが「毎朝ジョギングをする」や「スーパーでレジ打ちのバイトをする」「本の企画書をノートで検討する」等であれば、どのような映像が写っているかイメージできるはずです。

具体的とはそういうことなのです。

質問3「実際に行動するためにどんな工夫ができるだろうか?」

行動が具体的に表現されていたとしても、実行されなければ意味がありません。行動しやすくするためにどんな工夫ができるかを考えてみるといいでしょう。

工夫の仕方については下記の記事が参考になりますので、気になる方は読んでみてください。

www.behavior-assist.jp

物語は僕たちを惹きつけて止まない

3つの質問を使って、物語の中から抜け出し現実を生きることができるようになります。しかし、物語は僕たちを惹きつけて止みません。いつの間にか知らないうちに、僕たちは再び物語の中を生きることになっているでしょう。

先に書きましたが、それは仕方のないことでもあります。経験を次に活かそうとする思考の働きは、僕たちにとってあまりにも自然で当り前のことだからです。

大切なのは物語の中で生きていることに気づくこと。何度も何度もの物語の中に入り込んでしまいますが、何度も何度もそのことに気づけばいいのです。

頭では分かっているのに上手く行動できないでいるなら、今回お伝えした3つの質問を使ってみると物語から目覚めるのに役立つことでしょう。

まとめ

本記事でお伝えしたことは次の3点です。

  1. 期待外れの結果だったという経験を次に活かすために、僕たちの思考マシーンは自動的に物語を作り出す。その物語が”結果として”役に立たないものだった時、僕たちは物語に強いられることで次のチャレンジを失うことになる。
  2. 経験を次に活かそうとすることは、僕たちにとってごく自然で当り前のこと。それを止めることはできない。きるのは物語の中で生きていることに”気づく”ことだけである。物語の中の登場人物から、物語の読み手へ。そうすれば僕たちは行動を選ぶことができるようになる。
  3. 物語の中で生きていることに気づき、現実に沿って活動できるようするために3つの質問を解説した。(1) いま何を考えているのか?頭に浮かんできたのはどんな言葉なのか?、(2)これからどう行動することが、いまの自分の目的や理想の実現に役立つだろうか?、(3) 実際に行動するためにどんな工夫ができるだろうか?