行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動力を作る行動科学の知識と技術

行動力が欲しい。

何か達成したい目標や解決したい問題がある人なら、そしてそれをなかなか達成できない・解決できないでいるなら、もっと行動力があれば…という思いを抱くことがあるはずです。

行動力を作るためのノウハウは、世の中にたくさんあります。

それらのノウハウは確かに有効であるのですが、行動力についての問題の一部を解決するものであって、うまく前提条件が当てはまらないとうまく機能しません。

Aという病気に対して、Bという病気の薬を処方しているようなもので、当然、効くわけがありません。

ですので、そういったノウハウは「行動力の全体像」を捉えた上で、自分の弱点を認識し、それをカバーするために採用すべきでしょう。

行動力があるとはどういうことか?

ではまず「行動力がある」とはどういうことかを考えてみましょう。

行動科学的には標的行動を具体的に定め、その行動の頻度なりが一定の基準を超えること…といった感じになるのでしょうが、一般的にはこれとは違う捉え方をされているはずです。

行動力があるというのは、例えば次のようなことを指しているのではないでしょうか。

  • やるといったことを、通常よりも短い期間でやり終えている
  • 忙しいはずなのに、様々なことに手を出して成果を出している

つまり本来は達成が難しいはずの期間や状況にも関わらず、何かをやり遂げていたり、成果を出していたりすると、その様をみて「行動力があるなぁ」と評価しているわけです。

つまり僕たちが見ているのは、行動そのものではなく、その人の出している成果(または行動の所産)になります。

次点として、行動そのものを観察することができるのであれば、やるといってすぐに取り掛かる様をみて「行動力がある」と評価するかもしれませんね。

これも少し考慮に入れておきたいと思います。

行動力の全体像を考える

以上を踏まえて行動力の全体像を考えます。

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行動し完了するまでの4つのプロセス

僕たちが何かをやろうと思いたち、実際に行動し、完了させるまでには次の4つのプロセスを踏むことになります。

  1. 意図
  2. 選択
  3. 実行
  4. 完了

意図とは、〇〇を達成したいであったり、〇〇を解決したいという、行動の発端となる僕たちの願望みたいなものです。

選択とは、意図に沿って決めた、具体的な課題や計画、あるいは具体的な行動のことを指します。

実行とは、計画に沿って具体的に行動することを指します。

完了とは、当初の意図を達成する、あるいは計画していたマイルストーンに到達するまで行動できたことを指しています。

以上の4つのプロセスは、もしかすると無意識的に実行している箇所もあるかもしれませんが、ある人のパフォーマンスを分解していけば、この4つに整理できるのではないかと思います。

更にいえば、うまく行動できない人、十分に行動できないでいる人は、この4つのプロセスのどこかに弱点を抱えているのではないかと考えられます。

ここからは4つのプロセスそれぞれにおける、典型的な課題とそれを解決するためにどのような知識や技術を得るべきかを示していきます。

「意図」の段階での課題と解決策

意図を持つことがうまく機能すると、僕たちその意図に沿って「動機づけ」られます。

行動分析学の用語でいえば(言語的な)確立操作が機能します。

ただ意図がありにも不明瞭である場合は、この動機づけが機能しません。

何となく現状を変えたい、何かをやりたいとは思っているけど…。

そんな漠然とした思いのみで具体的な行動を起こせない場合、この意図のプロセスに問題を抱えていると考えてもいいでしょう。

この場合は次の知識や技術を学ぶことをお勧めします。

  • 自分自身の現状を俯瞰し、すでに「動機づけられている関心事」を明確にする方法
  • やりたいこと・やるべきことと、やる必要のないことを整理しつつ、いくつかの中期目標を設定する方法
  • 人生に長期的に影響する「テーマ」を見出す方法

「選択」の段階での課題と解決策

選択如何によって、その後の行動のしやすさは大きく変わります。

賢く課題設定や計画を立てることができると、いざ実行に移したときに成果が出る可能性が高くなるのです。

これは行動の継続という意味でも有利です。

なぜなら僕たちは成果の出ないことを延々と続けることを苦手としているから。

よって、この段階での問題は「選択の質」が低くなってしまうことです。

選択の質を評価する観点は2つあります。

戦略性と具体性です。

戦略性に欠けている場合、仮に十分に行動ができたとしても思うような成果は得られないでしょう。

効果的な行動を選ぶため、取り組もうとしていることについての戦略的な視点が必要です。

具体性にかけている場合は、自分の行動に対して自己評価するための明確な基準が持てなくなります。

結果どうなるかというと、感覚的にしか自分の行動を評価できなくなり、例えば「疲れるまでやり続けないと頑張ったと思えない」といったようなことが起きるようになります。

この段階で問題を抱えている場合は、次の知識と技術を学ぶといいでしょう。

  • 意図に沿って「構想」を描く方法
  • 現状を把握した上で、真に解決すべき問題に当たりをつける方法
  • 曖昧な選択を具体的に記述、表現する方法
  • 現状を踏まえ、適切な難易度の課題を設定し、行動しやすくする方法

「実行」の段階での課題と解決策

どのように素晴らしい意図や優れた計画があっても、実行されなければ絵に描いた餅になります。

この段階での問題は明確です。

すなわち、行動の質と量が不足することです。

量が不足する問題には、2つのパターンがあります。

1つは「やると決めてから取り掛かるまでに時間がかかりすぎる」という問題で、もう1つは「ひとまず実行はするものの、行動の量それ自体が少ない」という問題です。

行動の量が不足してしまうと、成果にたどり着くのが非常に遅くなります。

なぜなら仮説検証のサイクルがなかなか回らないから。

課題の設定や計画を立てることは、実は仮設を設定しているようなもの。

正しい選択ができたかどうかを実行することによって検証し、よりよい選択ができるよう軌道修正しなければなりません。

このサイクルが適切なスピードで回らないことは、成果を得るためにはかなり致命的です。

行動の質が低い場合は3つの問題が考えられ、それは「スキル不足」「課題が難しすぎる」「逃避行動が多い」です。

結果、頑張っても成果が出なかったり、一見、行動しているようにみえて十分なパフォーマンスを発揮できていないという事態が生じます。

実行の段階に問題がある場合は、次の知識と技術を学ぶことをお勧めします。

  • 先延ばしせずにやると決めたことにすぐに取り掛かる方法
  • 時間と活力を必要なことに集中して使う方法
  • 深い集中力を引き出して、自分のパフォーマンスを最大化する方法
  • 自分の強みの見つけ方とそれを発揮する方法
  • スキルを効率良く高めるための意識的な練習の方法

「完了」の段階での課題と解決策

この段階では、当初求めていた成果が出たのであれば、何の問題もありません。

問題が生じるとしたら、自分なりにベストな取り組みができたにも関わらず、思うような成果が出なかったときでしょう。

頑張ったのにダメだったのであれば、失望や落胆から行動を止めてしまうかもしれません。

本当に必要なのは、そこから何かを学び、軌道修正し、新たな試みにチャレンジすることです。

あるいは止めるにしても、現状の客観的な評価に基づき、根拠を持って止めると判断することです。

この段階に問題がある場合は、次の知識と技術が役に立ちます。

  • 現状を整理・分析し、次のより効果的な選択のために活用する方法
  • 痛みの伴う体験からの負の影響を取り除いたり、弱める方法