行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

机上の空論に自己満足せず、経験豊富な「行動する人」になる。

エピソード:作業期間の見積は難しい・・・

ソフトウェア開発において、作業工数の見積は難しい作業になります。

以前、ある開発の依頼を受けて、大体3ヶ月くらいと見積を出したことがあります。その中に、普通に考えれば一週間くらいで終わる作業があったのですが、いざ作業に取りかかった時に想定外のパターンが見つかりました。

一見すると大きなイレギュラーではありません。でも、それをシステム的にカバーしようとすると、作業工数が3倍の3週間くらい必要でした。頭の中で想像していることと、実際の作業の複雑さの違いがそれくらいあったのです。

3ヶ月の作業日程の中でプラス2週間の作業負担が増えるのは、結構厳しいものでした。時間に追われながらの作業になり、どうにかプロジェクトを終えた時には消耗してボロボロに・・・。以来、作業見積は間違うものである、という前提で計画を立てるようになりましたとさ。

考えて立てた戦略や計画は、現実からかけ離れている

現実は僕たちの「考える力」の手に余るもの

何かを始める前に、徹底的に計画を立てようとすることは、あまり効果的ではないかもしれません。一つ言えることは、始める前に立てた戦略や計画は、現実からかけ離れたものになっている可能性が高いってことです。

そもそも僕たちは現実を”そのまま”理解することはできません。現実には膨大な変数があって、ある一つの事象が他の多くの事象に影響を及ぼすこともあれば、重要そうに思えた事象が他に殆ど影響を与えない、なんてこともあります。現実の複雑さは、僕たちの「考える力」の手に余るものです。

頭の中のシンプルな世界と実際の複雑な世界

なので、頭を使って戦略を練ったり、計画を立てているとき、僕たちは現実をかなりシンプル化して捉えています。不要な(だと思っている)要素を削り、仮の法則や因果関係を適用し、これで上手くいくのではないかと妄想します。

しかし、そもそもの前提としているシンプル化したモデルが、現実からかけ離れていたとしたら、それらの戦略や計画は全く役に立たなくなります。

これが例えば15分くらいで終わるような簡単な作業であれば、僕たちの想定と現実は概ね一致します。1時間くらいでも大丈夫かもしれません。しかし、これが数日、数週間、数ヶ月と期間とボリュームが大きくなればなるほど、計画が全く役に立たなくなるくらいの大きな誤差が生じます。

仮説と検証という王道あるのみ

戦略や計画の立て方を工夫してどうにかできるかというと、それも難しいのです。同じようなことを繰り返すのであれば、徐々に精度が上がってくるでしょうが、始める時はどうしたって稚拙な計画を立ててしまうものです。

僕たちが有効なパフォーマンスを発揮するためには、戦略や計画を現実に沿ったものへと修正していく必要があります。つまり、よくいわれるように「仮説と検証」が必要という当たり前の結論に到るのです。

現実という実験装置を活用する

戦略や計画の検証をするというのは、現実を実験装置に見立てているようなものだと思ってください。本当は現実にそっくりの実験室があって、そこで計画が機能するかを素早く検証できればいいのでしょうけど、あいにくそんな実験室は手元にありません。仕方が無いので、現実そのものを実験室代わりにするのです。

現実を実験室代わりにするというのは、言い換えると「試してみる」ということになります。戦略や計画の一部を実際に試してみることで、現実からのフィードバックが得られます。仮説通りになったところもあれば、全く思うようにならなかったこともあるはずです(おそらく後者の方が多いはず)。

僕たちは現実世界での試みによってのみ、頭の中の世界をアップデートできます。想像の世界と本当の世界との差を知ることができます。合っていたというフィードバックであっても、間違っていたというフィードバックであっても、どちらも僕たちのこの世界への理解度を深めてくれるでしょう。

最も重要なところを実験する

実証された仮説を蓄積していく

戦略や計画には達成したい結果があります。その結果が生じるには、幾つかの要因があるはずです。例えば、ブログで10万PVを達成したいと考えているならば、ブログの記事数や1つの記事の文字数、テーマとキーワードから想定される被検索数、PVが伸びるまでにかかる期間などです。それらの分解された要因をそれぞれ実現すれば、求めている成果に到達できる・・・という「仮説」が立てられるはずです。 現実という実験装置で確かめるべき対象は、この「仮説」についてです。計画を立てた段階では、その仮説が妥当なものかは分かりません。どれだけ学んだものであっても、どれだけ優秀なコンサルタントから教えられたことであっても、いざあなたが実行した時にその通りの結果がでるとは限らないのです。それくらい、この世界は変化しますし、複雑です。なので仮説を検証する必要があります。

検証され、実証された仮説は、あなたの活動の支えとなります。少なくとも自分が取り組む場合においては、AをすればBという結果が得られると経験済みなわけです。行動と結果との関係性を体験的に学ぶことができると、その行動はとても実行しやすいものになります。感覚的には「自信が持てる」「見通しが立つ」ようになるといった感じでしょうか。

効果的な仮説検証のための3つのポイント

仮説の検証には、次の3点を意識するといいでしょう。

  1. 検証期間と検証方法
  2. 期待する結果
  3. 実際の結果

検証方法、つまり何をするのかは当然必要ですが、期間についても忘れてはいけません。先ほど例に挙げたブログのPVについて検証する場合、記事を幾つか書いてそれがアクセスに反映されるのに概ね3ヶ月かかるということであれば、検証期間は当然3ヶ月以上必要になります。期間が短すぎるためにちゃんと検証できなかった、というのではいかにももったいないでしょう。

期待する結果を予め想定しておくことも大切です。どの程度の成果が得られれば成功なのか、事前に設定しておいてください。人の解釈にはどうしたって歪みが生まれます。3ヶ月も検証に取り組んできて成果が出なかった・・・というのは、どうしたって受け入れがたいものでしょう。だからこそ、求めている結果を「ごく自然に」下方修正しがちなのです。

期待値は検証を始める前に、ちゃんと設定しておいた方がいいでしょう。その方が検証のプロセスが妥当なものになります。それがあなたの戦略や計画を、現実に沿った妥当なものへと進歩させてくれるはずですし、本来求めている成果に向けて行動の精度を高めてくれることにもつながるでしょう。

どう実験することで、地に足の付いた戦略や計画を手にするのか

効果的な選択肢とは?

効果的な選択肢というものは、机上ではなかなか得られないものです。何かを上手にやる人は、それを経験的に得ています。

考えることが不要だといっているわけではありません。考えること、新しい視点を得ること、仮説を持つこと等は、僕たちの選択肢を柔軟に、そして創造的にしてくれます。経験だけに頼っていては、早晩行き詰まってしまうことでしょう。

しかし、一方で考えていてばかりでは「机上の空論」でしかないのです。それが効果的な選択肢であるためには、経験による検証を欠かすことができません。故に、結局のところ、仮説と検証が大切という結論に戻ってくるわけです。

経験豊富な「行動する人」になるための4つのステップ

あなたが活動する(しようとしている)領域において、経験に裏打ちされた専門家となるためには、次のプロセスを踏みながら仮説と検証を繰り返してください。

  1. 知る
  2. やってみる
  3. できた
  4. 分かった

このプロセスのポイントは、僕たちが何かを確かに理解するのは、それが「できるようになった後」だというところです。

経験もないまま、情報や知識を増やしたところで、本当の意味で分かったことにはなりません。分かったような気がするだけです。実際にやってみると、想定外の出来事や、期待できる実質的な効果、機能するやり方などを経験することができます。それらの経験を言語化したときに、僕たちは「分かる」のです。

もしかしたらすぐには「できた」という体験は得られないかもしれません。しかし、「できなかった」という体験もまた貴重です。そこで具体的な課題を得られるからです。課題を持って「知る」「やってみる」というプロセスに戻れば、以前よりも高い精度で学びを深めることができるでしょう。

具体的だから行動できる

机上で学んでいる時は現実を抽象化して捉えることができます。実際に起こるであろう様々なことをぼやっとさせて、全てを把握した気になれるのです。でも、行動するとは「具体的」なものです。抽象化する際に削除し、ぼやかした部分が、具体的な現実として目の前に現れるのです。

そのような具体的な現実によって、僕たちの選択肢は磨かれていきます。そのようにして磨かれた選択肢をいくつも持っておくことができたとき、あなたは「できる人」になっていることでしょう。