行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

苦手な目標を克服するための「経験上書き作戦」

苦手な目標ってありますよね。でも、その目標を何とか達成したいのだとしたら、どうすればいいでしょうか。避けるのではなく、乗り越えるためにできることって何があるのでしょうか。

苦手意識は過去の経験によって形成されています。一度苦手意識が形成されると、嫌なので行動を避けることになりますが、そうすると経験が上書きされずにそのまま残ってしまいます。これが僕たちに苦手な目標がある理由。

苦手を克服するのに必要なのは、「行動して結果が出た」という体験によって、過去の経験を上書きすることです。そのためにも行動に「分かりやすく確実な結果」が伴うように、予め工夫をする必要があるのです。

苦手は避けると大きくなるので、上書きする経験が必要

誰だって苦手なことはあるし、避けたいと願う

エピソード1:挫折続きの英語が苦手・・・

海外の文献が読みたくて、何度か英語の勉強をしようと思ったことがあります。

僕にとって英語は、小学生の頃から英会話教室に通っていたにもかかわらず、中学2年の時に英語のテストでとても低い点を取ってしまい、それ以来、とても苦手な教科でした。

それでもと思い、社会人になってから洋書を読もうとしたり、英語勉強のWebサービスを使ってみたりと幾つか取り組んでみたことはあるのですが、すぐに挫折してしまいました。

エピソード2:知らないお店に入るのを避ける

こちらは目標というわけではないですが、苦手意識という点で共通していることに、知らないお店に入るということがあります。食事をしようとした時に、気になるお店があっても、何となく嫌な気持ちになって慣れたお店に入ってしまいます。

強化されたことがない行動は苦手になる

このように苦手意識を持ってしまうのは、何故でしょうか。具体的に何に苦手を感じるかは別にして、誰にでも苦手なことや避けたいと思うことがあるかと思います。

行動の法則に照らし合わせて説明するならば、「強化されたことがない行動はやりづらい」ということになります(強化とは、行動に伴い望ましい変化が生じることをいいます)。

そのような行動は、得意ではないと思えたり、できれば避けたいなぁと思えたりするのではないでしょうか。

苦手意識の形成と維持の仕組み

望ましい変化が生じないのは、十分に行動できていないから

行動しても望ましい変化が得られない理由の一つに、十分に行動できていないからというものがあります。僕の英語の勉強がそれに該当します。すぐに挫折してしまうので、勉強手段の善し悪しの評価もできません。

あるいは、すぐに挫折してしまうということは、「望ましい変化があまり生じていない」ということですから、能力にあった行動になっていないとも考えられます。

つまるところ、行動の質と量が不足しているため結果が出ないということです。

苦手で避けるからこそ、苦手なままになる

行動しても強化されない、望ましい変化が生じない場合、僕たちが経験するものは「無力感や挫折感」です。過去のこのような経験は、今の取り組みに影響を与えます。どうしても避けたくなってしまいます。

避けるとどうなるかというと、経験が更新されることなく維持されてしまいます。結果、苦手意識も維持されるというわけです。

苦手は克服すべきか、放置すべきか

日常に影響がないのであれば放置するのもアリ

ちなみに苦手な目標があったとして、僕たちはそれを克服しなければならないのでしょうか。この記事を読んでいるということは、あなたはできれば克服したいと思っているかもしれません。

しかし、事実上、日常にさほど影響が無いのであれば放置したって構わないと考えています。苦手を克服するよりも、得意を活かした方がスムーズに進むことも多いです。

苦手克服の目的は「日常がより機能的になること」

ただ、もし本当は達成したいと思っている目標なんだけど、過去の挫折経験から二の足を踏んでいる・・・ということでしたら、苦手意識を克服できるといいですよね。取り組んでみたいと思っていることにスムーズにチャレンジできれば、僕たちの人生の質が向上しそうです。

苦手を克服する目的は、あなたの日常がより機能的になることです。機能的とは「有効な行動の選択肢を持ち、望みに沿って柔軟に活動できるようになること」です。

苦手があるがために日常が非機能的になってしまっているなら、経験の上書きをして、少しでも柔軟に活動できるようになれるといいですね。

成長型の経験で上書きする

やっても結果が出ないから、やれば結果が出るへ

過去の体験の更新が苦手克服の鍵

冒頭の方にも書きましたが、問題は行動しても結果がでないことにあります。行動が強化されず、挫折感や無力感を体験してしまいます。このような体験をどう変更できるかが苦手意識克服の鍵となりそうです。

すぐに結果が得られるものは簡単に克服できる

これが「食事の時に知らないお店に入るのが何となく苦手」という話であれば簡単です。入ってしまえばいいのです。すぐに結果が出ます。事前に口コミサイトなどで評判を確認しておけば、結果が望ましいものになる確率も上げられそうです。

どうしても二の足を踏むなら、誰か友達と一緒に入るようにするとか、予約をしてしまって行かざるを得ない状態にするといった、行動するための工夫をするのもいいでしょう。このようにすぐに結果が得られることを克服するのは、そう難しくはありません。

塵も積もれば山となる型の目標に必要なのは「分かりやすくて確実な結果」

問題は英語の勉強のように、ある程度の積み重ねがないと結果が得られないものです。

積み重ねによって結果がでるようなものは「塵も積もれば山となる型」といって、行動を継続しづらい典型的なパターンの1つになります。「ちりつも」によって形成された苦手を克服するためには、「分かりやすくて、確実な結果」が必要です。

一番手軽にできるのは、ごく簡単な目標にチャレンジしてみることでしょう。どんな小さな目標であれ、目標を達成することそれ自体も一つの結果です。ベイビーステップで少しずつチャレンジする結果を大きくできるといいですね。これについては下記の記事も参考にしてみてください。

www.behavior-assist.jp

行動を意味あるものにする結果とは何か?

ベイビーステップな結果だけでは行動を維持できないかもしれない

しかしながら、小さな結果だけでは行動を促す程の力が得られないこともあります。ベイビーステップ、スモールステップなんて手法は、しばしば聞いたことがあるはずです。もちろん、それは有効なのですが、それだけでは苦手意識の克服は難しい場合もあるのです。

なぜなら、その小さな結果そのものにあまり魅力を感じられなかったり、最初は良くても次第に魅力が薄れてしまい行動を維持できなくなるためです。よって、ベイビーステップな目標以外の、行動を促す方へ作用する「付加的な変化・結果」が必要となります。

社会的フィードバックを活用して付加的な結果を作り出す

行動を促す結果には4つの種類があります。

  1. インセンティブ
  2. 社会的フィードバック
  3. 他の活動の機会
  4. 行動内在型

それぞれの詳細は割愛しますが、ここで使いたいのは「社会的フィードバック」です。

具体的には「約束、宣言」などによって、小さな結果に意味を付加するのです。ベイビーステップな目標の達成を約束したり、宣言することによって、行動に「約束を守れた」「宣言通りにできた」という結果を追加することができます。

小さな工夫を束ねて大きな力にする

約束や宣言を上手く活用するには、いまある人的なリソースを活用するといいでしょう。コミュニティ、家族、友人、同僚などのリアルな人のつながり、オンラインでのつながり、ソーシャルなWeb上のサービスなど、今の時代、使えるものがたくさんあります。

こういった工夫は、一つ一つは小さな力にしかなりません。でも小さな力でも、上手く束ねることができれば、行動を促す力を持ちはじめます。どんな工夫が効くかは試してみないと分かりませんので、あれこれ考える前に一度試してみてください。

もし苦手意識が強すぎて、こういった小さな工夫では焼け石に水状態ということであれば、行動契約をお勧めします。行動契約については、下記の記事で取り上げていますので、興味があればご覧ください。

www.behavior-assist.jp

塵を積もらせる行動の軌跡

行動できたという経験こそが努力が実を結んだ証

色んな工夫で「塵を積もらせ」てください。1つ1つの塵は小さいですが、それもやがて山となります。山となった様を振り返れば、それまで行動できた経験は、あなたを力づけてくれるでしょう。努力が実を結んだ証拠なのです。少しずつ、経験を上書きできていることを実感できているはずです。

未来の選択肢を柔軟かつ効果的にする行動の獲得

苦手な目標に限らず、それまでできなかったことにチャレンジするのは、目標の達成以外にも重要な副産物をもたらしてくれます。それは、目標を達成する過程のおいて様々な行動レパートリーを獲得することになるという点です。

獲得した行動はいまの目標だけでなく、今後の様々な状況で有効に働く可能性を秘めています。あなたの未来の選択肢をより柔軟かつ効果的なものにしてくれるのです。

より高い目標にチャレンジするためのリソースの獲得

行動だけでなく、同様にリソースも拡大しているかもしれません。リソースとはヒト・モノ・カネ・時間などですが、それらのリソースの獲得によって新たな選択肢が生じます。今までは達成が難しかった、より難易度の高い目標にチャレンジできるようになります。

有意義な目標にチャレンジし達成することは、苦手意識を克服するだけでなく、行動レパートリーやリソースの拡大という報酬も付いてくるかもしれないのです。

価値に接触する経験で上書きする

ヒトは「どのように行動するか」に価値を見る

行動そのものに内包された結果もある

社会的フィードバックを用いて、行動に結果を付加することを書いてきましたが、行動することそのものに価値を見出せる場合もあります。4つの結果のうちの「行動内在型」に該当します。ちょっと分かりにくいので例を使って。

例えばブログを書くとしましょう。30日毎日ブログを書くことをSNSで宣言して、毎日書いたことを報告すると反応がもらえる・・・これは社会的フィードバックによる付加的な結果です。一方、ブログを書き続ける中で「考えていることを上手く表現できた!」とか「今日は面白い記事書けたな〜」という場合、ブログを書くこと自体に内包されたポジティブな変化が生じています。このようなものが行動内在型の結果です。

価値:行動に内包された重要視する性質

行動内在型の結果のうち、特に自分が重要視する性質を持ったもののことを「価値」といいます。価値を意識すると、単に行動するだけではなく、どのように行動するかという点に注目するようになります。

例えば、ブログを書く時、人によって「考えを論理的に説明できていること」を価値とすることもあれば、「読んでいて楽しくなるように表現できていること」を価値とするかもしれません。いずれにせよ、このことはブログの書き方に影響を与えるはずです。

成果が出なくても価値は得ることができる

価値は行動に内包されている(行動内在型)ので、成果が出なくても得ることができます。「そう行う」ことで得られる結果ですから、行動を促すことにも、経験を上書きすることにも有効に働いてくれることでしょう。

行動の履歴から価値を掘り出す

価値は一人ひとりの経験の中に埋もれている

価値は一人ひとり固有のものです。過去どのような経験をしてきたかによって全く異なっています。ですから価値を見出すためには、自分のこれまでの行動の履歴を振り返ることになります。

自分史を書き出して価値と接触した体験を探す

履歴の振り返り方の一つは自分史です。中学時代あたりから現在まで、年表みたいなものを作成して、それぞれの年代で印象に残った体験を書き出してみてください。ポジティブなものでも、ネガティブなものでも構いません。

その後、書き出した体験の中から、特に印象に残ったものを3〜5つほどピックアップして、それぞれの体験に共通する性質を探してみてください。それが価値のヒントになるはずです。

繰り返し「なぜそうするのか?」を問いかける

自分史を書き出すのが面倒だという場合は、「なぜその目標を達成したいのか?」「なぜそれができるようになりたいのか?」などとWHYを繰り返し自問してみてもいいです。これが答えだと思えるところまで、WHYを繰り返すといいでしょう。

WHYを繰り返す場合にポイントになるのは、答えに付加的な結果が出てきた場合です。その時は「それが既に満たされていてもやりたいか?やりたいなら何故か?」と問いかけなおしてみてください。例えば、

  • 既に海外から情報が得られるようになっているのに、それでも英語を学びたいか?そうだとしたら何故学びたいのか?
  • 既にブログが月間10万PVなのに、それでもブログを書きたいのか?そうだとしたら何故書きたいのか?

といった感じです。

価値については下記の記事も参考にしていただくと良いかと思います。

www.behavior-assist.jp

価値に接触できる行動の基準を持つ

価値に接触するための選択肢(行動)を幾つか用意する

価値は行動することによって触れることができます。価値に触れるための具体的な選択肢を幾つか持つといいでしょう。

行動は死人テストと具体性テストでチェックする

まず行動を具体的に定義するためには、死人テストと具体性テストをパスしてください。

死人テストとは「死人にできることは行動ではない」という行動の定義で、具体的には「否定(例:歩かない)」「受身(例:褒められる)」「状態(例:静かにしている)」などは行動ではないという考え方です。

また、具体性テストとは、行動を具体的に表現するということですが、これにはビデオクリップ法を使うといいでしょう。行動している様子を映像に移したときに、そこに何が写っているかを説明できるかどうかを基準にしてみてください。例えば「ダイエットする」などは、映像に何が映るかをイメージできませんので、具体的ではないということになります。

いつでも価値に触れるように行動するといい

死人テストと具体性テストをパスできれば、具体的な行動を記述することができます。すぐにできることから、少し大きめのチャレンジまで幾つかあげてみるといいでしょう。また、達成する過程で価値に接触する機会がありそうな行動目標を掲げてみるのもありです。

行動や行動目標のリストがあれば、その時に実行しやすいものを選ぶこともできます。目標と絡めて実行できるものもあるかもしれません。気分の落ち込んだ時に実行しやすいものもあるかもしれません。どんな状況でも選択肢があるというのは、心強いものです。

まとめ

苦手意識がどう形成され、どう維持されているのか

本記事ではまず苦手意識がどう形成され、維持されるのかについて解説しました。

行動に伴ってポジティブな変化が生じない場合、その行動には苦手意識が伴うようになります。苦手意識を感じるので、当然避けたくなるわけですが、そうすると経験が更新される機会も得られないため、苦手なまま放置されることになってしまいます。

苦手意識を感じる目標は、日常に影響を与えないのであれば、そのままにしておいても問題ありません。しかし、何とか達成したいと思っているのであれば、苦手を克服できると、より柔軟かつ効果的に活動できるようになりますので、何とかしたいところです。

小さな結果を出すこと、付加的な結果を伴わせることで経験を上書きする

苦手克服の基本戦略は「経験の上書き」です。苦手意識を形成してしまった目標は、概ね「塵も積もれば山となる型」といって、小さな積み重ねを必要とする目標だと思われます。積み重ねが意味のある段階に来るまで、殆ど変化が生じませんので、途中で挫折して苦手意識のみ残ってしまうわけです。

そのような目標に必要なのは「分かりやすくて確実な結果」です。

  • ベイビーステップで小さな目標に置き換えて繰り返し達成する
  • 社会的フィードバックを使って、行動に付加的な結果を伴わせる

といった工夫が効果的です。

そのような工夫によって行動を継続できれば、新たなパターンの行動を獲得できたり、リソースの拡大につながったりします。それらはより高い難易度の目標にチャレンジする際に、あなたの武器となってくれるでしょう。

価値に触れる行動によって経験を上書きする

また、行動に内包された「価値」に触れる体験も、苦手意識を形成した過去の経験を上書きするのに有効です。価値は行動内在型といって、行動そのものに含まれているものですから、やれば触れることができます。

自分がどんなことに価値を見出すかは、過去の体験を探索するしかありません。自分史を書き出してみたり、何故行動したいのかを繰り返し問うことによって、価値のヒントを見つけることができるでしょう。

価値は行動に伴う「性質」のようなものです。単に行動すればいいというわけではなく、どのように行動するかが重要になります。価値を見出すことは、行動の仕方に影響を与えることでしょう。

価値に接触できる行動や行動目標を幾つかリストアップしておけば、目標に取り組む際に活用できたり、気分の沈んでいる時でもできることが見つかったりします。様々な状況に備えた選択肢を用意すれば、行動も継続しやすくなるでしょう。

以上のような工夫を駆使して、苦手意識を作った過去の経験を上書きしてください。