行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動の問題を深刻化させる「潜在意識」という足かせは捨てよう

潜在意識を変えれば行動が変わるといった考え方が、一部に定着しているように思います。この考え方には問題があり、行動を変えられないばかりか、事態を複雑に深刻にしてしまいます。

潜在意識が行動の原因だとするのは幻想です。原因でないものを原因としてしまった結果、自分で自分の問題を創造してしまうという悲しいことに。しかも、行動は変わりません。

行動を変えたいなら、自分の内側を見つめていてはダメです。行動は、常に自分と自分の「外側」との相互作用によって決定されます。もっとシンプルに行動を理解し、変えるためのアプローチが必要なのです。

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潜在意識という「メリットの乏しい概念」から離れよう

潜在意識が行動の原因であるという考え方

「行動の原因は自分にある」とする誤った考え方

メンタルブロックという言葉を聞いたことがあるでしょうか。コトバンクによると、次のように定義されるそうです。

人間が何か行動等を起こす場合に、出来ない、ダメだ、無理だと否定的に考えてしまう思い込みによる意識の壁、あるいは抑止・制止する思考のこと

行動を抑制してしまう考え方のクセみたいなものでしょうか。僕が書いているもう1つのブログでは、以前よく「メンタルブロックの外し方」で検索してくる方がいました。

自分の内側にある思考や感情、あるいはそれよりももっと深層にある何かを、行動の原因と捉える考え方は割と一般的なものです。そして、実はその考え方が行動の問題を深刻化させています。

潜在意識を変えると行動が変わるらしいが・・・

行動分析学を学ぶ傍ら、コーチングであったり、その他の成功法則的なものであったりに、時間とお金をかけて勉強していた時期がありました。

そこで知ったことは、潜在意識を書き換えてしまえば行動も変わるという話。書き換える方法は様々で、ビリーフチェンジ、アファメーション、インカンテーション等あります。僕の知らない方法もたくさんあるでしょう。

感情や思考がポジティブになるので勘違いしやすい

これらの手法は場合によっては、行動に良い結果をもたらすことがあるのかもしれません。しかし、根本的に原因を取り違えているので、多くの場合は行動に効果がないか、かえって問題を複雑化し解決困難にしてしまいます。

しかも、これらの手法をやった直後は感情がポジティブになることが多いので、上手くいったと勘違いしてしまいやすいです。この辺り、根の深い問題です。

循環論を理解する

自分の内側に理由を求めると循環論に嵌まる

ただ効果がないと書くだけでは納得してもらえないと思いますので、その理由を説明します。行動の原因を自分の内側に求めようとする考え方は、循環論法に嵌まって原因を取り違えています。

真面目な太郎さんとだらしない太郎さん

例えば、「規則に従い、遅刻せずに出勤し、勤務時間内は必要な休憩以外は仕事に取り組んでいる太郎さん」を見たとき、この太郎さんをどのように評価するでしょうか。

真面目、堅苦しい、メンタルブロックがあって自由になれない等、評価する人によって様々でしょう。ただ、いずれの評価でもいえることは、「太郎さんの行動を観察して、そのように評価している」ということです。

一方、太郎さんの自宅が「散らかっていて、片付けされておらず、ゴミも散乱していた」としたら、今度はどのように評価するでしょうか。

本当はだらしない人だった、心理的な抑圧から家ではこうなってしまう等でしょうか。やはり、太郎さんの観察できた行動(またはその行動の所産)から、太郎さんの内面を評価しようとしています。

証拠は表出した言動にしかない

太郎さんの潜在意識や深層心理、信念に問題があると考える場合、その証拠は太郎さんの行動や言葉になります。直接、潜在意識を観察できるわけではありませんから、当然です。

それが例えば「職場での真面目に振る舞いながらも、自宅を片付けられないでいる。だから、太郎さんには心理的な抑圧がある」といった解釈になるのでしょう(あくまでも解釈の一例であり、解釈内容の妥当性は本記事においては重要ではありません)。

そして説明が循環し始める

では、太郎さんが職場では真面目に働くのは何故でしょうか。あるいは、自宅では片付けられない理由は。先ほどの解釈に沿って続けるなら、もちろん答えは「心理的な抑圧があるから」です。今度は「太郎さんには心理的な抑圧がある。だから、職場では真面目で、自宅は片付けられない」という構造ですね。

ここ、ちょっとおかしくないでしょうか。シンプル化すると「AだからB」だったはずなのに、今度は「BだからA」といっているのです。

  • (A)職場での真面目に振る舞いながらも、自宅を片付けられないでいる。だから、 (B)太郎さんには心理的な抑圧がある。
  • (B)太郎さんには心理的な抑圧がある。だから、(A)職場では真面目で、自宅は片付けられない。

このような説明の構造を「循環論法」といい、何かを説明しているようでいて何も説明していないことになるのです。

循環した説明は単に「言い換え」をしているだけ

太郎さんの例でいえば、「職場では真面目、自宅では片付けられない」という行動の理由を説明しているようで、単に太郎さんの現状を別の言葉(例:心理的に抑圧されているから)で言い換えているだけなのです。基本的に同じことを言っているんですね。行動の原因には言及できていないのです。

何故潜在意識を信じようとするのか

循環論は一見説得力がある

とはいえ「潜在意識が○○だから、××のように行動する」という表現だけを取り上げれば、論理的な構造になっています。説明が循環論になっているので、論理に妥当性が無いというだけのことですが、循環していることに気づかないとこの論法にはとても説得力があるように思えてきます。

潜在意識を原因とする考え方では、更に様々な説明を付け加えていきます。

心理的に抑圧されているのは、子供時代の親子関係に問題があったからだ・・・といった感じに。あるいは、スピリチュアルな分野に踏み込んでいけば、前世に原因があったとする考え方もあるようです。

反証できないから強い拠り所となる

この手の説明の強いところは、反証するのが困難な点にあります。もしかしたら、子供時代の親子関係が行動に影響しているかもしれません。もしかしたら、前世なるものがあって、それが現在の行動に影響しているかもしれません。

そうではないことを証明することはできません(悪魔の証明なので)。信じたい人にとっては、とても強い拠り所だと思います。

個人的には、そもそも発端の部分が循環論なんだから、この辺りまで考える意味を見出せないですけどね。

成功者が言っていることは「正しそうに見える」

また潜在意識的なものを信じたくなる理由もあります。例えば、成功法則の分野では、「成功者」が「潜在意識の活用が重要だ」といったことを述べます。自分の成功した理由を潜在意識によって説明しようとしているわけです。

成功者が言っていることなので正しいように思えてしまいます。ハロー効果だとか、認知的バイアスと呼ばれる現象ですね。

誰かが失敗したことも循環論で説明してしまう

まぁ、でも成功者の言葉も基本的には循環論なのです。潜在意識は直接観察できませんので、潜在意識を上手く使えたかどうかは成功したかどうかでしか判断できません。

  • 私は潜在意識を上手く使った。だから、成功した。
  • 私は成功した。だから、潜在意識を上手く活用できたと言える。

この論の暴力的なところは、誰かが失敗してもその理由を全てその人の潜在意識に押しつけられる点にあります。頑張って行動したのに、「潜在意識が上手く使えてないんだよ」って言われちゃぁ、口をつぐむしかないでしょう。しょんぼりへにょんです。

だから「潜在意識」という概念は広く使われている

一見論理的に正しそうに見える、反論することが難しい、成功者が説明に使ったなどの背景が、潜在意識を信じることのメリットを作り出したのだと思います。

また、潜在意識を信じる人達のコミュニティにおいては、潜在意識を説明に使うと同意してもらいやすいという環境になっているでしょうから、行動と潜在意識とを関係づける思考も定着しやすいといえます。

潜在意識にフォーカスすることで深刻化する問題

行動の問題が複雑化し、解決困難になる

行動の問題がどんどん複雑になる

潜在意識だとか、性格だとか、思考や感情といったものを、行動の原因とする考え方は、行動の問題を複雑にします。

なにせ子供時代の親子関係にまで遡ろうとするのですから、本当に大変です。過去の体験を思い出し、それと今の行動とを恣意的に関係づけて、例えば「父が厳しい人でしょっちゅう怒っていたことが原因だったんだ!」と自分を納得させるわけです。

目の前の行動の問題からどんどん遠ざかっている

それは、まぁ、いいのです。説明が付くことで救われたような気持ちになることもあります。その効能自体まで否定するつもりはありません。

しかし、問題は行動です。いま、ここで起きている行動なのです。内面や過去を掘り下げに掘り下げたせいで、「行動が起きている”いまここ”」から随分と遠いところに旅立ってしまいました。戻ってきましょう。

行動を変えたいなら、「自分」ではなく「行動」を分析しよう

行動の原因は、行動が生じている環境を分析しなければ見えてきません。行動に伴って何が起きているのか(あるいは起きていたのか)を観察し、分析する必要があるのです。

自分の内側と向き合うことによって気づきが生じ、何だか生きやすく感じられるようになった。それはOK。でも、行動の問題を解決したいのであれば、自分の内面だけを見ていてはダメなのです。

解決できない問題に悩み続けてしまう

自分で行動の問題を解決困難なものにしてしまう

行動と自分の内側とを関係づけてしまうと、不幸なことが起きます。

行動の原因は、先ほど書いたように「行動に伴って何が起きているのか」にあります。自分と自分の「外側」とが相互作用した結果、いまの行動が生じているのです。なので、自分の内側にある潜在意識や性格などをいくら見直しても、行動に与える影響は微々たるものです。

にもかかわらず、潜在意識を行動の原因として捉えてしまうと、「気づきを得て生きやすくなったはずなのに、行動は変わらない」という現実に直面してしまいます。そうすると、「まだ私の潜在意識には問題が潜んでいるんだ・・・どうすれば」と悩むことになります。

きっと、たまたま行動が変わる時まで、悩み続けることになるでしょう。

行動の問題に潜在意識や性格を持ち込まなければ幸せになれる

いっそのこと「潜在意識と行動は関係ない!」と割り切ってしまっていれば、最初に得た気づきを、人生を生きやすくするために使えたのだと思います。行動とは関係なく、日々をどう感じるのかという部分で活用すればいいのです。

行動の問題に潜在意識や性格等を持ち込んではいけません。それは茨の道です。

行動と体験へとフォーカスを変える

無意識的に行動することはあっても、無意識が行動させるわけではない

確かに僕らは無意識に行動する

さて、そろそろ行動との機能的な向き合い方について書きたいところです。

潜在意識の源流は、おそらくフロイトによって発見された「無意識」にあるのでしょう。僕たちは、確かに無意識に何かをすることがあります。

例えば僕はいまキーボードを打っていますが、一つ一つの指の動きを意識的に行っているわけではありません。僕の顕在意識は、どのような文章を書くかにフォーカスしています。指の動きは無意識的なものでしょう。

しかし無意識(潜在意識)が行動をコントロールしているわけではない

ここまではいいのです。無意識的に行動することは、自他共に観察できることです。しかし、問題は「無意識(潜在意識)が行動をコントロールしている」といったように、無意識の役割を拡大させてしまう考え方にあります。

こうなると、行動の原因を無意識や潜在意識に求めてしまい、これまでに書いたような問題へと発展していきます。

無意識的な行動は条件付けの結果である

僕たちの無意識的な行動は、単に行動の学習の結果なのです。オペラント条件付けといいますが、行動にメリットが伴うことを何度も経験すると、類似した状況下でその行動の生じる頻度が高まります。

そこに意識的なものか無意識的なものかは、関係ありません。条件付けされれば、その行動は生じるようになる。ただそれだけのことです。その現象をそのまま受け入れてしまえばいいのです。

行動を変えたいなら、自分ではなく行動にフォーカスしよう

行動の原因を説明するのに必要なものは3つだけ

あなたが行動の問題を解決したいのであれば、自分を変えようとするのは止めてください。その代わり、もっと「行動」にフォーカスしてください。具体的には、次の3つです。

  1. 行動が生じている状況や背景
  2. 具体的な行動
  3. 行動によって生じている結果

この3つを観察し、分析することで行動の原因が掴めるようになります。

この3つを観てもらえれば分かりますが、そこに性格だとか潜在意識といった要素はありません。行動する理由を説明するのに、それは不要な情報なのです。

僕たちの行動のことを本当に理解したければ、上記3つの視点を使いこなすことを学ぶといいでしょう。潜在意識などの概念を使わずに、ヒトの行動を説明することができるようになります。

行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)

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パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学

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何を変えれば行動が変わるのか

行動は上記3つのうち1と3によって決まります。特に「3. 行動によって生じている結果」の影響が大きいです。直接的な行動の原因といってもいいでしょう。

一方「1. 行動が生じている状況や背景」は、3の結果が起きるように状況をセットアップしたり、あるいはその結果の影響力を強めたり弱めたりします。間接的に行動に影響を与えています。

行動を変えたいなら、「3. 行動によって生じている結果」を変えればいいのです。3を直接変えるのが難しい場合は、「1. 行動が生じている状況や背景」を通して3が変わるように工夫します。

具体的にどう工夫すればいいかについては、それだけでかなりの分量になってしまいますので、下記の記事に別途まとめました。

www.behavior-assist.jp

行動を変えたいなら行動の原因を変えよう

一ついえることは、「1. 行動が生じている状況や背景」と「3. 行動によって生じている結果」を変えることなく、「2. 具体的な行動」だけを変えるのは難しいということです。行動の原因をそのままにしておいて、行動のみを変えようというのは無理があります。行動を変えたいなら、行動の「真の原因」にメスを入れてください。

行動が変われば、自分も変わる

行動が変われば「自分」も変わります。何故なら、「自分をどう評価するか」は自分の行動や言葉を観察することによって決まるからです。行動が変われば「自己観察の内容」が変わるので、それに基づく評価も変化します。

循環論に嵌まってしまうと、行動を変えるために自分を変えようとしてしまいますが、順序が逆なんですね。自分を変えたいと考えている方もいると思いますが、そうだとしたらまずは自分の行動を変える工夫をするといいでしょう。

どのような行動をできる自分あれば気持ちが良いのか。具体的な行動を幾つかピックアップして、今の自分がどうであってもその行動を実行するにはどんな工夫ができるかを考えてみてください。

まとめ

潜在意識を行動の原因とする考え方は循環論法

本記事では潜在意識を行動の原因とする考え方が、行動の問題を解決しないばかりか、複雑化・深刻化させてしまうことについて説明しました。

潜在意識等の「自分の内側にある何か」を行動の原因とする考え方は、循環論法に嵌まっています。もっともらしく原因を述べているようでいて、単に現状の行動を別の言葉で言い換えているだけです。 行動の本当の原因は、別のところにあるのです。

行動を変えるために目を向けるべきところから遠ざかってしまう

自分の内側にある何かを行動の原因としてしまうと、行動を変えるために自分の内面を変えようとすることになります。しかし、それは行動の原因ではありませんので、当然ですが行動は変わりません。問題が解決しないのです。

解決しないので、まだ自分には”何か”あるんだと思い込み、再び自分の内側を掘り下げる作業に戻っていきます。行動を変えるために目を向けるべきところから、どんどん遠ざかっていくのです。

行動を変えたいのであれば、行動を理解するための3つの視点にフォーカスする

行動を変えたいのであれば、自分ではなく行動にフォーカスしてください。行動を理解するための視点は3つです。

  1. 行動が生じている状況や背景
  2. 具体的な行動
  3. 行動によって生じている結果

この3つの視点で行動を理解し、原因を捉え、行動を変容させるための工夫をすれば、行動は変わります。

行動が変われば自分への評価も変わります。自分を変えたりなら、行動からアプローチする方が近道だと思います。