行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

考えることが持つ行動を変える力と思いどおりに行動するための工夫

今日は早く寝よう!と思っていたのに夜更かしして次の睡眠不足になったり、今日は食事を控えめにしようと思っていたのに、いざ目の前に料理が出てくると食べすぎてしまったり。

ええ、僕のことですヽ(´ー`)ノ

どうも考えた通りに行動できる時とできない時ってやつがあるようで。もっとこうしたいと思った通りに行動できたりしないものでしょうか。

この問題を解決するためには、思考が行動に対してどう働いているのかと、思考以外にどんな要因が行動に影響を与えているのかを知るところから始める必要があります。

その上で、行動を変化させるための小さな工夫を積み重ねていけば、次第に思いどおりに行動できる状況が整っていきます。ちょっと長い記事になってしまいましたが、今から読もうとしているあなたのヒントになれば嬉しいです。

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考えることはどのように行動に影響を与えるのか?

考えるとは「自分の内側で起こる言葉を使った行動」といえます。そしてその言葉に行動が影響を受ける現象のことを「ルール支配行動」といいます。

思考の行動への影響の与え方は次の3つです。

  1. プライアンス
  2. トラッキング
  3. オーグメンティング

少し、具体的に解説しておきます。

プライアンス:指示とフィードバックの組み合わせ

プライアンスとは行動についての事前の指示と、事後のフィードバックがセットになったものです。プライアンスを提示した人によって、恣意的に行動が強化されることになります。

例えば、食卓を囲んでいる時に「そこの醤油を取って(指示)」といわれて、実際に取ってあげたら「ありがとう(フィードバック)」と言ってくれたとすると、これはプライアンスに該当します。

あるいは「大人しく留守番できたらおもちゃ買ってあげる(指示)」といわれて、静かに留守番していたら「おもちゃを買ってもらえた(フィードバック)」というパターンも、プライアンスに該当します。

フィードバックを与えるかどうかを、指示を出した人が決めているという点が特徴でしょうか。

今回のテーマである「考えることが行動に影響を与える」という文脈においては、指示を出す人も、フィードバックを出す人も自分自身となります。

例えば、「よし!いまから30回、腹筋しよう!」という意図(指示)を示し、実際に完了できたら「終わった」というフィードバックを自分に与えることになるでしょう。

これについては下記でも取り上げているので、興味があれば読んでみてください。

www.behavior-assist.jp

トラッキング:上手く行動するためのアドバイス

トラッキングとは「求めている結果を得るための行動の仕方」を示唆するものです。効果的なトラッキンであれば、その通りに行動することができれば、事前に望んでいた結果にたどり着く可能性が高くなります。

例えば、目的地に時間までに着くために路線検索を使うことがあると思いますが、あの検索結果はトラッキングとしての機能を持っています。何時にどこ発の電車に乗り、どの駅で何に乗り換えて、結果何時までに目的地に着くかが示されています。多くの場合、その通りに行動すれば時間までに到着することができるでしょう。

あるいは、「今度の試験でいい点を取りたかったら、この範囲を勉強しておくといいよ」といったものもトラッキングになります。トラッキングはうまく行動するためのアドバイスのようなものなのです。

一方、効果の薄いトラッキングというものもあります。主に小さな積み重ねが必要な活動であったり、滅多に起きない結果を求めて行動する場合などが該当します。この場合、行動してもなかなか良い結果を得られないため、トラッキングは行動に対する影響力を失っていくことになります。つまり、行動を促すことがなくなるのです。

例として分かりやすいのはダイエットでしょうか。例えば「糖質を減らした食事を取れば痩せやすい」といったトラッキングに対して、数回の食事では自覚できるほどの効果を得るのは難しいと思います。そうすると次第にトラッキングの効果がなくなっていって、ダイエットを途中で止めてしまったりするわけです。

オーグメンティング:動機付け

最後のオーグメンティングは、行動の結果に対する動機付けのようなものです。

例えば、ダイエットのためにジョギングすることにしたとしましょう。ジョギングにはもちろん、体重を減らしてくれる効果もあると思いますが、体重が減ることは健康面で効果があったり、スタイルがよくなったりといった結果も期待できます。

これは体重が減ることに対して、健康や見た目といったプラスαの結果を関係づけることによって、体重が減ることの魅力を高める効果が期待できます。

あるいはブログのアクセスを増やすために、毎日ブログを書き続けている場合はどうでしょうか。アクセスが増えるという結果の魅力を高めるオーグメンティングは、例えばそれだけ誰かの役に立てているとか、多くの人に見てもらえれば影響力が高まるとか、広告収入が増えるといったものになります。

他にも○○PVになればブログ全体の上位1%に入れるといった分析や、友人のAさんに「いつも読んでるよ」といわれることもオーグメンティングとして機能するかもしれません。

このようにオーグメンティングによって、結果についての魅力を高めるように、別の概念・刺激と関係づけることができれば行動は促されやすくなるでしょうし、その反対に作用すれば結果は行動を促す力を失うことになるでしょう。

参考:関係フレーム理論

これらの考え方は「関係フレーム理論」にもとづいています。もし詳しく知りたいなら、下記の書籍を読んでみてください。やや難しいですが、大変興味深いです。

関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門

関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門

考えた通りに行動できる時、そうでない時の違いを知る

以上のような3つのパターンで、考えることは行動に影響を与えることになります。では、考えることが上記のような機能を持ったなら、必ず行動を変えてしまえるものなのでしょうか。

もちろんそうではないのです。僕たちの殆どは考えた通りに行動できた時と、考えた通りに行動できなかった時の両方を経験しているはずです。この2つの違いは、どこにあるのでしょうか。

その違いを読み解いていくためには「言葉以外の行動の原因」についても考慮に入れなければなりません。ヒトの行動は環境の影響を受けるのです。

行動は環境からどのような影響を受けるのか?

1. 行動はメリットが得られそうな時に生じる

行動は「行動に伴ってメリットのある結果が得られそうな時」に生じます。つまり、まず最初に「いま行動したらメリットあるよ〜」ってサインを捉え、それをトリガーに行動が生じる、ということです。

例えば、目の前に友人Aがいる時に昨日合った面白かったことを話せば、友人Aが笑ってくれるという結果が得られるとします。この場合、「目の前に友人Aがいる」ことが「笑ってくれる」という結果を得られるサインとなります。

あるいは逆のケースもあって、目の前に友人Bがいるんだけど、その友人Bは面白い話をしても笑ってくれることがなく「どこか面白いの?」的な反応しかしない…としたらどうでしょうか。この場合、「目の前に友人Bがいる」ことは「笑ってくれる」という結果が得られるサインとはなりません。

ちょっとややこしいですが、目の前に友人Bがいても、きっとあなたは昨日あった面白いことを話そうとはしないでしょう。行動はメリットが得られそうな時に生じるものなのです。

2. 行動するとデメリットがあるならやらない

行動にデメリットがあるなら、僕たちはその行動の実行に消極的になります。

また友人を例に使って説明してみましょう。友人Aに仕事の愚痴を言うと「そんなことを言っているからいつまで経っても…」と説教されてしまいます。一方、友人Bに仕事の愚痴を言うと「それは辛いね…」といったように共感してくれます。いまあなたの目の前に友人Aがいます。仕事の愚痴をいいますか、いいませんか。

まぁ、言わないですよね。説教されたいというのであれば別ですが、通常は藪蛇になりそうなことは控えてしまうことでしょう。

3. 行動する負担感はどうなっているか

行動そのものの負担感も、実際に行動するかどうかに大きな影響を与えます。

今度は仕事の場面を想像してみましょう。目の前には同期の社員Aがいます。Aとは長年一緒に仕事をしてきて、業務内容はもちろん、お互いの仕事のやり方等も理解できています。そんなAにある仕事の引き継ぎのために、現状を説明しなければなりません。ただ相手がAなので、数分程度で説明できてしまいます。

これだととっても楽に実行できますよね。一方、次のような場合はどうでしょうか。

目の前には中途で入ってきた社員Bがいます。Bがどんな知識・能力を持っているのか分かりませんし、会社の業務についての理解もまだまだ不足しています。そんなBにある仕事を引き継がなければなりません。Bにも分かってもらえるように細かな所まで説明したり、色々な質問に答えたりしなければなりません。

こちらはとても面倒そうです。仕事内容を説明するという同じ行為であっても、どういった状況・場面でそれをやるのかによって、負担感が大きく変わることがあります。

4. 結果をより求めるタイミングがある

行動に伴って得られる結果は行動に大きな影響を与えますが、その影響力は行動する状況・タイミングによって変動します。

あなたはいま、得意先に営業に来ていて、相手が購入を検討してくれている商品について説明しようとしています。残念ながらあなたの今月の営業成績は下降気味で、今朝も上司に嫌味をいわれてしまいました。こんな状況に置かれていれば、契約が取れるという結果の魅力はとても高いものになることでしょう。

一方で、今月は思いの外、順調に契約が取れていて、そんなに無理する必要もないという状況であれば、契約が取れるという結果の魅力は前の状況に比べれば低くなってしまうかと思います。

結果の魅力が高ければ、その分、行動への影響力は強くなります。契約という結果がどうしても欲しければ、手を変え品を変え、商品の魅力を一生懸命説明するかもしれませんね。何かをサービスしてしまうかもしれません。

5. 行動することそのものに魅力がある

行動することそのものに魅力が含まれている場合もあります。

例えば、明日のプレゼン資料を作成していたのだが、夢中になって時間を忘れてしまった…といったようなケースがこれに該当します。行動に付加的な結果が伴わなくても、それをやること自体に魅力が内在されている状態です。

このようなケースでは、行動することはとても有利です。

6. できないものはできない

行動を実行できるだけの技能があるかどうかは、根本的な部分で影響を及ぼします。

自転車などをイメージしてもらえればいいのですが、自転車に乗れば速く移動できることが分かっていても、自転車に乗ることができなければどうしようもありません。このような場合は、先に行動を学習する必要があります。トレーニングが必要なんですね。

自転車のように単純に乗れるか乗れないかということが重要な場合もあれば、乗れるには乗れるけど、漕ぎ方とかスピードが要求されるといったように、技能レベルが重要になる場合もあります。

やろうとしている行動を十分に実行できるレベルにあるのかどうかを確認しましょう。

考えた通りに行動できる時、できない時

以上のように行動は「環境」の影響を受けます。そして前に書いた通り「考えること」の影響も受けます。どちらも行動を促すこともあれば、止めることもあります。

この2つの影響力の結果として、考えた通りに行動できることもあれば、考え通りに行動できないこともある、ということです。まぁ、「○○しよう」と考えたということであれば、少なくとも思考の方は行動を促す方へ働いているものと思われます。

つまり、2つの影響力は次のように整理できます。

  1. 思考は行動を促し、環境も行動を促す方へと影響している → 考えた通りに行動しやすい
  2. 思考は行動を促し、環境の影響力は非常に弱い → 考えた通りに行動できるかもしれない
  3. 思考は行動を促し、環境は行動を止める方へと影響している → 考えた通りに行動するのは大変

考えた通りに行動できる場合は1か2に該当するし、考えた通りに行動できない場合は2か3に該当するということです。

思考と環境の力を束ねてしまおう

さて、ここまで長い文章を読んできたあなたの関心は、おそらく「どうしたら考えた通りに行動できるのだろうか?」という点にあると予想します。

その答えは簡単で、「思考と環境の影響力が、両方とも行動を促す方へと作用するように工夫しよう」ということになります。

まず環境についての工夫は下記の記事を参考にしてください。基本的には先にあげた行動の環境についての6つの視点から工夫を考えることになります。

www.behavior-assist.jp

思考を行動のために効果的に使う3点の工夫

思考についての工夫は次の3点について考えます。

  1. 自己教示と自己賞賛のトレーニング
  2. 有効な行動を示唆する情報の収集
  3. 具体的な結果に対するさらなる動機付け

1. 自己教示と自己賞賛のトレーニング

自己教示と自己賞賛のトレーニングについてはすでに前にも書きましたが、下記の記事を読んでみてください。

www.behavior-assist.jp

2. 有効な行動を示唆する情報の収集

有効な行動を示唆する情報の収集ですが、これはWebや本などで情報を得るのももちろんいいのですが、それ以上に大切なのが試行錯誤の中から得る経験的な情報です。

具体的には下記の2つの記事を読んでいただくのをお勧めします。

www.behavior-assist.jp

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3. 具体的な結果に対するさらなる動機付け

最後に具体的な結果に対するさらなる動機付けですが、これは2つのルートがあります。1つは望ましい目標や目的を設定し、そこから具体的な行動へとブレイクダウンしていく方法。もう1つはやってみたいと思う行動を先に設定し、何故それをやりたいのかを問いかけていく方法です。

もしかしたらすぐに完璧な状態にはならないかもしれません。最初はそれで良しとしてください。大切なのは行動しながらも修正していくことでしょう。

下記の記事を参考にしながら、目標設定を上手く使うといいかと思います。

www.behavior-assist.jp

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全ての工夫を束ねて力にしよう

思考に対する工夫と環境に対する工夫を、考えた通りに行動する方へと活用しましょう。コツは複数の工夫を同時に試してみることです。1つ1つの工夫がもたらす力は小さなものかもしれませんが、それが束ねられた時には十分に行動を後押しするだけの力を持つものです。

こういった工夫を繰り返す内に、自分の得意技などもできてくることでしょう。是非、試してみてください。

まとめ

この記事でお伝えしたことは次の3点になります。

  1. 考えることが行動に影響を与える方法は3つ。(1)プライアンス:指示とフィードバックの組み合わせ、(2)トラッキング:上手く行動するためのアドバイス、(3)オーグメンティング:動機付け。
  2. 行動は思考だけでなく環境からの影響も受ける。思考が行動を促す方へと働いていたとしても、環境が行動を止めていれば、考えた通りに行動するのは難しくなる。
  3. 考えた通りに行動できるようになるためには、思考と環境の影響力の方向を揃え、またその力が強まるように小さな工夫を束ねていくことである。