行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

報酬とやる気(内発的動機づけ)の関係についての1つの結論。

面白い論文を発見したので、そのシェアを。やる気について関心がある人は、必読です。

ci.nii.ac.jp

時々ネットでも話題になるのですが、報酬を与えると外発的動機になって行動に創意工夫が見られなくなったりとか、自発的な動向を阻害したりする、といったものがあります。それは本当なのか?ということなのですが、基本的には既に結論が出ている話のようです。

簡単に言ってしまえば、報酬が内発的動機付けを低下させるのは、極めて限定的な条件下のみであり、通常は気にする程のものではなさそうです。

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photo credit: Mukumbura via photopin cc

以下に、論文を読みながら取ったメモをまとめておきます。読んでみて興味を持たれた方は、上記のリンクから論文の方を読んでみてください。この記事自体に僕の恣意的な解釈が含まれているかもしれませんので。

論文「報酬は内発的動機づけを低めるのか」より

報酬と内発的動機付けを巡る背景 

Deciはパズル解き実験で、報酬の提示したグループにおいて、実験と実験の合間に設けた自由時間にパズル解きの活動が低下した。このことが、報酬によって内発的動機付けが低下していることを示していると主張。

これを受けて、報酬を用いた教育は、報酬が与えられた行動への内発的動機付けを低めるから、できれば避けようという機運が高まる。ただ、実際には報酬による内発的動機付けの低下はそれほど一般性のあるものではない(いくつかの条件が満たされた中でのみ成立する現象)。

報酬が内発的動機付けを低めるのは稀である

報酬が内発的動機付けを低める場合、4つの前提条件がある。

  1. 行動の前に、その行動をすれば報酬が与えられることを予告しなければならない。
  2. 報酬が遂行に随伴して与えられなければならない。
  3. 報酬を与えられる前から、面白い行動であること。
  4. 物的な報酬であり、言語的な報酬ではないこと。

つまり、これらの条件に該当しない報酬の与え方であれば、報酬が行動の内発的動機を低下させることはない。

また、内発的動機付けのキーワードが含まれる96個の論文を分析した結果、次のことが分かった。

  • 全体として報酬の有害効果は無かった。
  • 報酬を物的なもの言語的なものとに分けると、物的な報酬条件では行動が減少していたのに対し、言語的な報酬条件では行動が増加していた。
  • 物的な報酬を用いていても、更にその報酬を予告した場合と、予告しなかった場合に分けると、予告条件でのみ行動が減少していた。
  • 物的な報酬を予告した研究を、更にその報酬を行動に随伴提示したものと、随伴させないで提示したものに分けると、随伴条件でのみ行動が減少していた。(※論文の中では”非”随伴条件でのみ行動が減少していた、と記述されているが文脈から誤植かと思われます)

報酬による内発的動機付けの低下という現象は、恣意的に選んだ報酬を機械的に用いるという、かなり特殊な状況でなければ生じない。通常の教育をしている限り、ここまでに述べた条件を満たすことはほぼ無さそうである。

教育の方針に関するヒント 

物的な報酬は、言語的、社会的な報酬の効果が低い時のみに用いられるものである。物的な報酬を用いざるを得なかった場合でも、すみやかに言語的、社会的なものに切り替える。

一般に行動を形成する上では、報酬の予告や随伴性が明確な方が効率的であるが、行動を維持する上では、寧ろ、それらを不明確にした方が効果的である。つまり行動の維持が指導上の課題となっている時に、もし報酬の予告や随伴性が明瞭であったならば、それらを徐々に不明瞭なものに移行させれば良い。

では内発的動機付けを高めるには? 

尚、本論文のテーマは「報酬が内発的動機付けを低下させるか?」であって、「どのような教育が内発的動機付けを高めるのか?」については別途議論が必要とし、下記の2つの提案をするに留めている。

  1. 行動に随伴して「楽しい」「嬉しい」と感じられる報酬を提示することで、行動そのものにも「楽しい」「嬉しい」を感じられるように条件付けする(対提示)
  2. もともと行動そのものに「楽しい」「嬉しい」といった報酬が組み込まれていたとしても、その活動に従事しなければそれが得られることはない。よって、最初は外から何らかの働きかけをして活動を促すことが必要であり、その働きかけの主たるものになるのが報酬である。