行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

「当たり前のことを当たり前にやる」部下を育てる行動マネジメント

Q.
部下が当たり前のことを当たり前にやらない。何とかならないだろうか。

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A.
当たり前のことをやる…というのはさも当然そうするものだと思えますが、結構難易度の高いことだったりもします。

なぜなら当たり前のことをやっても誰も認めてくれないから。

だから行動が定着しづらいのです。

当たり前のことをやったら、何かいいことが起きるようにするといいですね。

”当たり前の行動”には喜びが伴わないことが多い

スキナー博士の言葉

行動分析学の創始者B.F.スキナー博士曰く。

人は過去、好子(こうし)を得た行動を、 いままさに実行せんとするとき、生きがいを感じる

これは私の大好きな言葉で、わかりやすく表現すると

  • 今までの人生で喜びを感じた行動をやろうとするとき、再びその喜び味わう期待に胸が躍る

といった感じでしょうか。

人の行動について考える時、私たちはこの言葉から学ぶべきことがあります。

私たちが行動に積極的になるには、1つ1つの行動に対して「喜びを得たことがある」という経験が必要です。

当たり前の行動をしても何も得られず、しなかった時は痛みを得る

家族が、友人が、部下が、生徒が、そして自分が当たり前の行動をしたとき、一体、何を得ているのでしょうか?

大抵は何も得ていません。当たり前だから、やって当然ということです。

では、当たり前の行動をしなかったときは、どうでしょうか?

大抵は「痛み」を得ます。

怒られたり、罰を受けます。

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僕たちは痛みを避けるための行動を学習してしまう

でも、よく考えてください。

このやり方は一体、人にどんな行動を学習させているんでしょうか。

人は痛みを避け、快楽を得ようとします。

怒る側の論理は、「怒られるという痛みを味わったんだから、次回からそれを避けるためにちゃんとやるだろう」といったところでしょうか。

でも、痛みを避ける方法は様々です。

  • 怒られないように、無難に無難に行動するかもしれません。
  • 怒られないように、怒った人との接触を先延ばしにするかもしれません
  • 怒られないように、その場を凌ぐために嘘をつくかもしれません。
  • 怒られないように、疎遠になったり、会社や学校を辞めるかもしれません。

行動の原理原則を押さえておこう

すこし行動科学の話をします。

ここで紹介するのは強化の原理と弱化の原理。

行動に関する二大原理ともいえるものです。

行動の原理メモ:強化の原理

強化の原理とは、行動の直後にメリットのある結果が伴った場合、その後、行動の頻度が増えることをいいます。

つまり僕たちがいま実際に行っている様々な行動は、過去(あるいは現在も)、どこかで強化された行動だということです。

また反対にいま行っていない行動は、これまで強化されたことがない、と言い換えてもいいでしょう。

当たり前のことを当たり前にできていない場合、それは「当たり前の行動」が過去強化されていないことを示唆しています。

強化されていない行動をやれといっても無理な話です。

また怒られることを避けられた、というのもメリットのある結果で強化されます。

例えば当たり前のことができないためにしばしば怒られているので、可能な限り消極的に仕事に関わることで、怒られる場面を減らすことができたとしたら、消極的な働き方が強化される可能性があります。

指示待ち社員、やる気のない(ように見える)社員のできあがりです。

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行動の原理メモ:弱化の原理

強化の原理とは真逆に位置するのが弱化の原理です。

弱化の原理とは、行動の直後にデメリットのある結果が伴った場合、その後、行動の頻度が下がることをいいます。

いまできている行動であっても、それを弱化するとその行動はやらなくなっていきます。

一般的に「怒る」「責める」といった関わり方は、相手の行動を弱化することになるでしょう(正確にはその場面を具体的に分析しなければ分かりませんが)。

マネジメントや教育の方法として「怒る」「責める」といった手段を使っている場合、相手の行動をどんどん消極的なものにしていく可能性があります。

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行動の原理メモ:弱化の副作用

加えて弱化には恐ろしい副作用があります。

弱化は大抵、それを受ける側に痛みが伴います。

痛みを受けた人は、その場面にあった様々な刺激に対しても同様の痛みを感じるようになります。

仕事のミスを怒られただけなはずなのに、上司や職場が怖くなったりするのは、この現象が起きているためです。

重症化すれば出社拒否、登校拒否といった事態を招くかもしれません。

当たり前ができない人に「痛み」を与えてしまう理由

部下が当たり前のことをやってくれないと悩んでいるということは、部下の行動を強化していないことが考えられますし、場合によっては弱化してしまっているかもしれません。

なぜこうなってしまうのでしょうか。

やるのが当たり前だろ、と思ってしまう理由

例えば「言われなくてもやるのが当たり前だろ」と思ってしまう場合、おそらく自分にとってはごく普通の行動であって、やるのが通常・やらないのが異常という感覚なのでしょう。

そのように自分をトレーニングなり、成長なりさせてきたことは素晴らしいと思います。

しかし、相手もそうだとは限らないというのが今回のポイント。

自分の常識と相手の行動の現実とのギャップに戸惑ってしまっているわけです。

しかも部下の行動が自分の常識から逸脱して非常識に見えているわけですから、辛く当たってしまうのもうなずけます。

ただ、このままでは部下は当たり前のことをできるようにはならないでしょう。

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後付で単に「いいやすい言葉」だっただけ説

別の理由で「当たり前にできないこと」を責めてしまうこともあります。

それは「そんなの当たり前だろ!」といった言葉が使いやすいから使ってしまうというパターン。

部下の質問や言い訳に、冷静で適切な言葉を返すことに負担を感じた場合、より簡単にその場を収める方法として採用している可能性があります。

僕たちは同じ目的を達成できる行動が複数ある時、より簡単に実行できる方を選んでしまう生き物なのです。

部下から質問されている、言い訳されているという状況を終わらせるのに、最も簡単な手段だったのかもしれません。

当たり前のことができるようになってもらうには

ここまでが「部方が当たり前のことを当たり前にできない理由」と「その部下を上手くマネジメントできない現状」の説明でした。

ではどうするか。

学び手は常に正しい

まず部下を教育するに当たって覚えておいて欲しい言葉があります。

それは

  • 学び手は常に正しい

です。

上司という存在は部下にとってとても影響の大きなものです。

部下の行動の学習環境の大部分は、上司の影響を受けます。

つまり部下の現在の行動は、あなたが関わった結果そうなっていると考えてください。

学び手は常に正しいとは、現在の部下の状態はあなたの教育・マネジメントの質を反映したものであることを意味しています。

部下が当たり前のことをやってくれないと嘆いているのであれば、それはあなたの教育・マネジメントの仕方を変えなければならないというサインです。

人は3つの段階を経て「行動している」に到達する

まず大切なのは、部下がどこで躓いているのかを知ることです。

人は何かの行動を「やっている」状態になるまで、次の3つの段階を踏みます。

  1. 知る
  2. できる
  3. やっている

つまり部下がこの3つのどこで躓いているかを把握しましょう。

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具体的な行動を伝え、できるように練習する環境を整える

知らないことは実行できません。

具体的にどんな行動を実行すればいいのか伝える必要があります。

何をすればいいか分かっていても、能力・スキルの不足から実行できないこともあります。

この場合、必要なのはトレーニングです。

例えば自転車に乗ればいいは分かっていても、自転車に乗る練習をしていなければ自転車を運転することはできません。

部下が練習できる環境を整えてあげましょう。

部下に能力・スキルを発揮してもらうために強化の原理を活用する

最後に能力的にやろうと思えばできることであっても、強化されなければ行動は定着しません。

部下に能力・スキルを存分に発揮してもらいたいなら、それらの行動を強化する必要があります。

人事評価で高評価したり、面談などで承認したり、部下の具体的な行動を見える化してグラフにしてみたり。

様々な方法で強化することができます。

この辺りの詳しいことが知りたければ、下記の本をおすすめします。

自律型社員を育てる「ABAマネジメント」

自律型社員を育てる「ABAマネジメント」

インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック

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「当たり前のことを当たり前にやる」は希少なことだと認識しよう

当たり前のことを当たり前にやる。

それを実現するのは、意外と大変なことなんです。

どんな行動に、どんなタイミングで、どんなフィードバックを返すか。

当たり前の行動を身に付けるために、の正否を分けるポイントと言ってもいいでしょう。

"当たり前"に"喜び"を。

尚、部下の教育・マネジメントではなくて、自分自身の行動について「当たり前のことができるようになりたい」というのであれば、下記の記事などを読んでみてください。

www.behavior-assist.jp