行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

”緊急ではないけど重要な仕事”に取り組むための行動科学的視点

7つの習慣という超有名な本に「緊急度と重要度」の話が出てきます。それによれば僕たちの仕事は4つに分類されることになります。

  1. 緊急度 高 × 重要度 高
  2. 緊急度 低 × 重要度 高
  3. 緊急度 高 × 重要度 低
  4. 緊急度 低 × 重要度 低

このうち1番目は当然やるとして、よくいわれる問題は2番目と3番目のどちらを優先しているのかということ。本来は重要度の高い仕事を優先すべきなのですが、僕たちは緊急度に弱い生き物なので、ついつい3番目の「緊急度 高 × 重要度 低」を優先してしまいます。

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行動分析学的にみれば、緊急度の高さは「すぐに分かりやすい変化」がある仕事になります。例えば、メールに返信すればその仕事はすぐに終わりますし、大して重要でもない書類の提出期限が迫っていれば、書類を作って提出することで期限が守れたという変化が得られます。

一方、緊急度の低い仕事には「やらなくてもただちに問題は起きない」という特徴があります。例えば、半年後〜1年後を見据えて後輩を育てることを考えてみると、今日、後輩の指導を先延ばしにしたところで目の前の仕事で問題が起きるわけではないでしょう。

もちろん、それは将来に負債を回しているだけで、いざ1年後になってみると後輩が思うような戦力になってなくて、自分の首を締めてしまうことになるかもしれません。ただこういう「遅延した結果」というのは、今の行動への影響力は小さくなってしまうのです。

理性ではたとえ緊急度が低くても、重要なことなのであればやったほうがいいと分かっています。しかしながら上記のような理由によって、僕たちの行動はなかなか理性の示す通りにはなりません。ですので、2番目の「緊急度 低 × 重要度 高」をしっかりと進めるためには、それ相応の工夫が必要になるのです。

 

緊急度と重要度の問題で対応すべきなのは次の2つです。

  1. 緊急度が高いだけで大して重要でないことを優先してしまう
  2. 緊急度も重要度も高い仕事だけで精一杯になってしまう

どちらも「緊急度が低く重要度の高い仕事」を先延ばしにしてしまい、自分の首を締めるという未来を招いてしまいます。ただ、この2つではそれぞれ対応方法が異なる点に注意しましょう。

1つ目の問題に比べると、2つ目の問題は遥かに難易度が高いです。1つ目が単純な優先順位の問題であるのに比べて、2つ目は「時間の欠乏」も同時に生じているからです。

イメージとしては、次から次に重要な仕事の〆切が迫ってくるようなものでしょうか。明日までに仕上げなければならない仕事があって、それが終わったら3日後が〆切の仕事が待っている…そんな感じです。息をつくひまもなく仕事の洪水に押し流されてしまいます。

1つ目の優先順位の問題については、緊急度をコントロールする工夫で解決可能です。しかし、2つ目の時間の欠乏の問題では、緊急度をコントロールする余地がありません。MAXまで緊急度が高まった仕事で溢れてしまっているからです。中長期的な取り組みで、仕事の構造自体を変えていく必要があります。

これから2つの問題それぞれについての具体的な対応方法を説明します。

重要な仕事に取り組む「理由」を作る4つのコツ

まず1つ目の問題についてです。

  1. 緊急度が高いだけで大して重要でないことを優先してしまう
  2. 緊急度も重要度も高い仕事だけで精一杯になってしまう

緊急度が高いだけで大して重要でない仕事を優先してしまった結果、重要な仕事のために使う時間や活力がなくなってしまう場合、まず考えるべきは「重要な仕事に取り組むための理由を作る」ことです。重要な仕事なので理由ならあるに決まっている、と思うかもしれませんが、ここでいう理由とは「行動を促すだけの影響力のある理由」です。

一般的に重要な仕事に取り組むべき理由は、時間が経ってから得られる未来の結果に関連しています。しかし、このような遅延して生じる結果は「現在の僕たち」にとっては大した価値はないのです。

これは価値割引という考え方ですが、例えば「3年後にもらえる100万円」に「いま現在の僕たち」がどの程度の価値を感じられるかということです。

通常は、3年後の100万円をいま現在の「主観的価値」に置き換えると大きく目減りしてしまい、魅力を感じられなくなってしまうのです。もちろん個人差のあることなので、3年後の100万円にも十分な価値を感じられる人もいるにはいます。ただ多くの人にとってはそうではない、ということなんですね。

 

よってこの問題で考えるべきことは、ずばりこれです。

緊急度が低いけど重要な仕事に一定量取り組んだら、価値の感じられる何らかの結果を得られるようにするにはどうすればいいか?

セルフマネジメントの講座などでは「行動に付加的なメリットを作る」と説明しています。付加的なメリットを作る方法は主に4つです。

  1. インセンティブ(ご褒美)
  2. プレマックの原理
  3. 他人からの承認や評価
  4. 行動契約

インセンティブは一番わかり易い方法かもしれません。例えば「重要な仕事に週5時間以上取り組めたら、自分へのご褒美として気になっていたステーキ屋さんに行く」などです。好きなものだけど普段は制限しているような何かをご褒美に使ってみるといいでしょう。

プレマックの原理は、分かりやすくいうと「いつもやっていること」をご褒美にします。例えばいつもスマホゲームで遊んでいるなら、「重要な仕事に30分取り組んだらスマホゲームで遊んでいい(取り組むまではスマホゲームで遊んではいけない)」とします。

娯楽的な行動だけでなく「緊急度の高い行動」をご褒美代わりに使うこともできます。例えばいつも仕事の最初にメールチェックをしているなら、「重要な仕事に30分取り組まないとメールチェックをしてはいけない」といったようにします。

他人からの承認や評価を使う方法も有効です。他人の目がある中で、自分がどの程度の重要な仕事に取り組むのかを宣言した上で、やった・やらなかったを報告してみましょう。

Facebookのグループ等のSNSやSlackやChatworkといったコミュニケーションツールを使って、同じ悩みを共有する仲間とつながるとやりやすいかと思います。仲間に報告する前提があると、いつもより少し、重要なことに取り組む力が働きます。

最後は行動契約で、こちらはペナルティを使う方法になります。例えば「重要な仕事に週5時間以上取り組む。もし守れなかったらお小遣いから3千円を罰金として払う。」といった感じです。なるべく避けたくなるようなペナルティを設定するのがコツです。

この方法は1つ前の「他人からの承認や評価を使う方法」と組み合わせるとより効果的に機能します。同僚や上司、友人と行動契約してみるといいかもしれません。

足りない時間を増やす2つの方法

緊急度が低いけど重要度が高い仕事に手を付けるためには、上記以外に次の2つの方法が考えられます。

  • 割り当てる時間そのものを増やす
  • 効率化で既存の仕事の時間を短縮する

どちらも「使える時間を増やす」というアプローチになります。

最初の方法はシンプルに仕事の時間そのものを増やします。時間の増やし方としては、早起き等でいつもの仕事の前に時間を作ったり、仕事が終わった後や夕食を食べた後に時間を作る方法がありそうですね。

ただこうやって増やした時間は「緊急度は低いけど重要な仕事のためだけ」に使ってください。

 

もちろん単純に時間を増やすのが難しいこともあるかと思います。労働時間を増やすと疲労が溜まりやすくなったり、趣味的なことに使う時間を大切にしたいという人もいるでしょう。その場合は既存の仕事の効率化を考えたいところ。

仕事の効率化は「仕事そのもののスピードを上げる方法」と「無駄にしている時間を極力減らす方法」の2つがあります。

仕事そのもののスピードを上げるには、手順や道具を見直したり、スキルを向上させたり、ITを活用してみるといいでしょう。現状、どの部分に時間がかかっているかを分析するのもおすすめです。仕事のスピードを上げるアプローチは、実践難易度はさておき、アプローチの意味自体はわかりやすいものだと思います。

 

一方で「無駄にしている時間を極力減らす方法」は、それより少し分かり難いかもしれません。

僕たちが時間を無駄にしやすいのは、時間に余裕がある時です。余裕があるときに時間を無駄遣いし、追い詰められてから時間を切り詰めるように使い始めます。

これは僕たちが「緊急度に弱い」ことと似たようなもので、気を付けたり意識すれば解決するという類の問題ではありません。行動の原理原則として「そうなっているものだ」と理解する方がいいでしょう。

よって無駄にしている時間を減らすには、時間に余裕があるときでも「時間を無駄にすることへのプレッシャー」を作ることが肝要です。

例えば、いつも17時くらいに仕事を終えているとしましょう。時間の使い方を振り返ってみると、午前中や昼休み後の割とまだ時間に余裕があるときは、ついつい時間を無駄にしていました。

そこで次のようなルールを導入します。

  • 緊急度の高い仕事は15時までしかやってはいけない。それ以降に緊急度の高い仕事に手を付けた場合は、ペナルティを負う。

このようにすることでいつもより「使える時間」が短くなり、時間を無駄にすることへのプレッシャーが強まり、効率よく時間を使えるようになります。仮に上記の工夫を導入したら、15時以降は「緊急度は低いけど重要度の高い仕事のためだけの時間」になりますので、緊急度に負けることなく重要な仕事を進めることができるでしょう。

忙しすぎる人には普通の工夫が役に立たない

緊急度と重要度の問題の2つ目について説明します。

  1. 緊急度が高いだけで大して重要でないことを優先してしまう
  2. 緊急度も重要度も高い仕事だけで精一杯になってしまう

ここまで、「緊急度の低い重要な仕事に取り組む理由を作る方法」と「仕事の時間そのものを増やしたり効率化によって無駄な時間をへらす方法」をお伝えしました。

しかし、こういった方法は、もともとある程度の時間的余裕がある人でないと効きません。

緊急度も高く、重要度も高い仕事がたくさんあって、それだけで精一杯の状態である場合、たとえ重要であっても緊急度の低い仕事に時間を割くのは難しいです。既存の仕事からのプレッシャーが圧倒的すぎて、多少の工夫をしたところで全く役に立たないんですよね。

ですので、やるべきことは「仕事の構造」を見直すことです。目標はこれまでお伝えしたような「通常の工夫が使えるくらいの余裕」を作ること。

ただ難しいのはこの手の問題はすぐに解決しない点です。緊急性のプレッシャーに加えて、いまの状況に陥ってしまった背景的理由もあるので、それらに抗いながら中長期的に取り組んでいくことになります。

なかなか大変ではありますが、やらなければ永遠にこの状況が続くので、少しずつでも改善していきたいところです。具体的な改善方法は次の2つです。

  1. 他人の力を借りる
  2. やめることを決める

個人技からチームワークへ

他人の力を借りる狙いは、単純に「仕事に割り当てられるリソースを増やす」点にあります。

自分が抱えていた仕事を部分的にでも進めてくれる人がいれば、当然ですがその分、時間や労力の欠乏が解消されます。そうすれば将来のための重要な仕事を進めるための工夫を導入する余地が生まれるはずです。

他人の力を借りる具体的な方法は、概ね次のどちらかではないかと思います。

  • 外注先を見つける
  • 人を雇う または 仲間を見つける

外注先を見つけるのは分かりやすいですよね。お金というリソースを活用して時間というリソースを得る方法。本業でない業務や、ノウハウが業界で共有化されているような業務であれば、外部の力を利用するのはいい選択肢になるかと思います。

人を雇うという方法は、もしかすると即効性はないかもしれません。なぜなら教育するための時間と労力がかかるからです。

ただ個人技からチーム・組織で対応する方へとシフトするためには、欠かすことのできない過程です。人を雇う方法には、外注と違って、本業の重要な部分についても任せられるようになるという大きなメリットがあります。

機能するチームを作り上げることができれば、自分ひとりだけで頑張っているのに比べて、遥かに大きな推進力を手にすることができるでしょう。場合によっては「緊急度が低い重要な仕事を進める人」を育てることも考慮にいれていいでしょう。

いずれにせよ、自分ひとりで対応するのではなく、チームとしてどう対応するのかを考えることになりますので、構造的に大きな変化になると思います。

尚、行動分析学を使ったチーム・組織マネジメントの方法もありますので、興味がある方はこちらを読んでみてください。 ⇒ https://www.amazon.co.jp/dp/4897952085

やりたい仕事かそれとも収入か…それが問題だ

他人の力を借りる方法、あるいは効率化などの工夫は「リソースを増やす」方法の一つですが、やめることを決める方法はそもそもの仕事量を減らすというアプローチになります。

重要度の高い仕事が多いといっても、実際のところ重要度の高さには差があるはずです。

つまり相対的にみれば、結局のところ「緊急度が高いけど重要度は低い仕事」のせいで「緊急度が低くて重要度の高い仕事」が放置されているという構図になっているのです。とはいえ、そこそこ重要度は高いので放置するのは難しいという状態でしょう。

このように相対的には重要度は下がるけど、そうはいってもそこそこ重要度が高いという仕事で、時間と労力が欠乏してしまう場合は、何かの仕事を止めるという選択肢を検討してみましょう。

仕事の止め方は2つです。現在取り組んでいる仕事を中止するか、新しく入ってくる仕事を断るかです。

ただいずれにせよ、何を判断基準にして仕事を止めればいいかが難しいところですね。

 

よくあるのが「本当にやりたい仕事をやろう」みたいな話もありますが、置かれた状況によって優先すべきことは変わったりします。極論ですがやりたい仕事ばかりをやった結果、家賃も払えず住むところも今日の食事にも困ってしまうようであれば、結局のところやりたい仕事もやれなくなってしまいます。

最終的にはモチベーションを感じられる仕事を優先することを目指すとしても、直近の1〜2年は別の基準で仕事を選択する必要はあるかもしれません。どのように止めるべき仕事を考えるかは、次の3つの仕事の目的を意識してみるといいでしょう。

  1. 生活のための仕事
  2. キャリアのための仕事
  3. 興味・関心のための仕事

生活のためのの仕事とは、簡単にいえば収入目的ということになります。

やりたいことをやるにせよ、ステップアップを目指すにせよ、いまいる足場が安定してこそです。金銭が欠乏してしまうと、今度はそのことで頭がいっぱいになってしまい、生活のための仕事しか考えられなくなります。

贅沢はできなくても、生きていくことは十分にできる程度の最低限の収入は確保しましょう。

キャリアのための仕事とは、自身の成長につながったり、周囲からの評価・信頼を獲得することを目的した仕事です。先々の選択肢を増やすために重要な役割を果たします。

興味・関心のための仕事は、やりたい仕事といいかえても良いかと思います。基本的にはこのタイプの仕事が増えてくると、仕事への満足度も高くなるでしょう。

ただ先に書いた通り、やりたい仕事をやって衣食住を失うのでは継続性がありません。理想的には、やりたい仕事であると同時に、生活のための仕事にもなっているという状態でしょう。

やりたい仕事の収益化を目指したりすることが「緊急度は低いけど重要度は高い仕事」でもあったりします。やりたい仕事の割合を増やすことを目指し、少しずつ仕事を育てていくという感覚で、止める仕事を選んでいくといいかと思います。

重要な仕事に集中し、中長期的に日常を変えていこう

まとめです。

僕たちは緊急性に弱い生き物です。なので、意識することなく仕事に取り組んでいると、緊急さだけを優先度の基準に選んでしまうため、

  • 緊急度は低いけど、重要度は高い仕事を放置する

ことになってしまいます。

この類の仕事は中長期的な成長や改善に欠かせないため、ただちに問題になるわけではありませんが、時間が経つにしたがって自分で自分を苦しい状況に置くことになります。ですので僕たちには、緊急さに負けることなく、ちゃんと重要な仕事に取り組むための工夫が必要になります。

緊急度と重要度の問題で対応すべきなのは次の2つです。

  1. 緊急度が高いだけで大して重要でないことを優先してしまう
  2. 緊急度も重要度も高い仕事だけで精一杯になってしまう

 

1つ目の問題の根本にあるのは「緊急度の低い仕事に取り組んでも、すぐに分かりやすい結果が得られない」です。

ですので、緊急度の低い仕事に取り組んでも、行動を促すのに十分なだけの結果が生じるように工夫することになります。急度の低い仕事に取り組む理由を追加する方法は4つです。

  1. インセンティブ(ご褒美)
  2. プレマックの原理
  3. 他人からの承認や評価
  4. 行動契約

また、理由を追加する工夫以外にも「労働時間を増やす」「仕事を効率化する」等によって、時間というリソースを増やす方法も考えられます。使える時間を増やす場合、増やした時間は必ず「緊急度が低く、重要度の高い仕事」に割り当てるようにしましょう。

 

2つ目の問題についても触れておきます。2つ目の問題の根本にあるのは「重要度の高い仕事だけで時間が欠乏している」です。

時間の欠乏とは、緊急度が最大化している状態ですので、多少工夫して緊急度の低い仕事に取り組む理由を作っても焼け石に水です。仕事の構造を変化させて、時間の欠乏から抜け出す必要があります。

次のどちらかの方法を検討してください。

  1. 他人の力を借りる。具体的には外注を利用するか、誰かを雇うか。
  2. やめることを決める。3種類の仕事を意識して手放す仕事を決め、既存の仕事を止めたり、新しい仕事を断ったりする。

以上です。