行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

忘れっぽい人でも忘れることなく行動する工夫とは?

忘れっぽいのが悩みです。どんな風に忘れっぽいかというと、例えば…

  • 出かける時にゴミを捨てておいて欲しいと頼まれた。準備をしている時に「あー、捨てなきゃなー」と思い出したにも関わらず、いざ出かける瞬間になったら欠片も思い出すことなくスルーしてしまった。
  • 出かけるついでにはがきを投函してきて欲しいと頼まれた。ゴミと同じように出かける瞬間には忘れていて家に置いてきたり、はがきを持って出かけることはしたものの投函を忘れて持ち帰ってしまう。
  • 薬を飲み忘れてしまう。飲み忘れただけなら、思い出した時にすぐに飲めばいいのだが、飲んだかどうかをはっきり覚えてなくて「今日の分の薬は飲んだっけ…?」となってしまう。

…という感じです。ほんとこれどうなのって感じなのですが、このブログのメインテーマは行動科学(行動分析学)なので、行動科学をベースに原因と対策を考えてみたいと思います。

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では、なぜ僕はこんなにもやるべきことを忘れたり、過去の行動について記憶が曖昧になってしまうのでしょうか。よくある説明だと「僕は忘れっぽい人だから」とか「どうでもいいと思ってるから忘れるんだよ」とか「気を付けてないから」などでしょうか。しかし、これだと循環論法に嵌ってしまい、説明しているようで説明できていない事態に陥ってしまいます。

循環論法とは原因と結果が互いに入れ替わってしまうような説明の仕方です。

例えば「ごみ捨てを忘れてしまうのは、僕がゴミ捨てをどうでもいいと思っているからです」と説明したとしましょう。では「ゴミ捨てをどうでもいいと思っていると判断した理由は?」と問い直せば、「よくゴミ捨てを忘れるから」という答えにたどり着きます。

つまり「ゴミ捨てをどうでもいいと思っているから、ゴミ捨てを忘れる」と説明する一方で、「よくゴミ捨てを忘れるから、ゴミ捨てをどうでもいいと思っている」という説明も使ってしまっているのです。

これが循環論法。原因と結果の関係を説明しているようで、実は同じ物事を違う言葉で言い換えているだけなのです。

循環論法に気づかないと、本来は原因ではないものを原因としてしまい、その解消を目指すことになります。何もないはずのところに自分で問題を作って、解決に奔走した結果、複雑怪奇な迷路に迷い込んでしまうのです。ですのでゴミ捨てを忘れたりする原因は「忘れっぽいから」でもないし、「気を付けていないから」でもありません。

では、本当の原因は何でしょうか?行動分析学的な視点から「忘れっぽい問題」の原因に迫ります。

やるべきことを忘れるのは「きっかけ」の不足に原因がある

僕が例にあげた忘れっぽい問題は、主に2つに分類できます。

1つは「適切なタイミング」で行動できないという問題。玄関を出る時にゴミを手に持つとか、はがきを手に持つ、あるいはポストの前にきたらはがきを投函する等の行動が、適切なタイミングで生じていません。これらは思い出すことさえできれば、行動することはできていたはずです。

適切なタイミングで行動が起きない場合、基本的には「きっかけ(先行刺激)の不足」と考えるといいでしょう。

行動は「きっかけ → 行動 → 結果」の3つで分析することができます。このうち「結果」は将来の行動の頻度に影響し、「きっかけ」はいまが行動すべき時であるかを示唆します。

つまり、適切なタイミングで行動が生じないということは、適切なタイミングで行動のきっかけが生じていないということでもあるのです。ですので、この問題については「適切なタイミングできっかけが生じる」ように工夫することで解決できます。

もう1つの問題についても見ていきましょう。今度は「適切な行動」が生じないという問題になります。

3つ目の事例では、今日の分の薬を飲んだかについて正確に言及できていません。これはタイミングの問題ではなく、そもそも適切な行動が実行できない状態に陥っていると考えた方がいいでしょう。

薬を飲んだかどうかについて、曖昧な記憶に頼って言及しようとしています。記憶が曖昧であれば、当然、それに依存している行動の質も低下します。適切に行動するためには、記憶以外の何かのサポートが必要となりそうです。

以上が行動科学で見た「忘れっぽい問題」の原因です。この原因を踏まえて、どのように解決すればいいかを説明します。

忘れっぽい人のままでやるべきことを忘れないようにする工夫

忘れっぽい問題の原因は2つです。1つはきっかけ(先行刺激)が不足しているために、適切なタイミングで行動が生じないこと、もう1つはそもそも適切な行動を実行できない状態に陥っていること。

であれば解決策もそれに対応したものになります。即ち、

  • 適切なタイミングで行動が生じるように環境内にきっかけを作る
  • 適切な行動を実行できるように環境内にプロンプトを作る

です。この方針に沿って、3つの事例の具体的な解決方法をお伝えしていきます。

事例1:ゴミの出し忘れ問題を解決する

まずはゴミを出し忘れる問題について。ゴミを出しておいてと頼まれ、出かける準備をしている時などに思い出しはするものの、いざ出かける瞬間には忘れてしまっているという状態です。

つまり「出かける瞬間」に「ゴミを出す」ことを思い出せればいいわけです。どうすれば必ずゴミを出すことを思い出せるでしょうか?

よくあるのが玄関の扉などに張り紙をして「ゴミ捨て」などと書いておく方法です。ただ僕の場合、常に張り紙がしてある状態だと日常の一部と化してしまい、華麗にスルーしてしまいます。僕が絶対にスルーできないようなきっかけを環境内に作る必要があります。

結局どうしたかというと、ゴミ捨てを頼まれた時にゴミをまとめてしまい、部屋の扉の前に置いておくようにしました。部屋から外に出ようとすると、足元にまとめたゴミが置いてある状態でとっても邪魔です。歩くのを邪魔する障害物ですので、ゴミを無視することはできません。

こうすることによって今のところ、頼まれたゴミ捨てを忘れることはなくなりました。ちなみに次案として玄関に置いておく方法もありますが、外出しない日に頼まれることもあって、その場合、僕が玄関まで行かないので思い出すきっかけが得られないという問題もあり、いまの方法に落ち着きました。

事例2:ハガキの出し忘れ問題を解決する

次はハガキを出し忘れる問題です。これもゴミ出しと同じで適切なタイミングでハガキを手に持つとか、投函するという行動が生じていないのが問題でした。まず家から出かけるときにハガキを忘れないようにするためには、どういう方法が考えられるでしょうか。

一つは頼まれた時にすぐに鞄に入れてしまう方法が考えられます。ただこれには問題があって、鞄に入れたまま投函することなく持ち帰ってしまったり、そもそも鞄を持って出かけないこともあり、あまり解決になりません。

そこで採用した方法が、出してほしいハガキがある時は財布に挟んでおいてもらうようにしました。財布はほぼ毎回もって出かけますので、財布に何かが挟まっていれば、当然、その存在に気が付きます。

次にハガキを鞄などにしまうのではなく、必ず手に持つようにしました。手にハガキを持っていればその存在をある程度意識し続けられますし、手がふさがっている状態は嫌ですので、ポストに投函することへのメリットも生じます。

以上の「財布に挟んでもらう」「鞄に入れずに手に持つ」という2つの方法でハガキの出し忘れはなくなりました。

事例3:薬を飲んだか忘れてしまう問題を解決する

次は薬を飲んだかどうか忘れてしまう悩みです。これは他の2つと違い、そもそも適切な行動自体が生じにくいという問題があります。曖昧な記憶に依存しているため、「今日は薬を飲んだか?」という問いに明確に答えられないでいるわけです。

記憶の正確さというのは個人差のあることだとは思いますが、どんなに記憶力のいい人でも、全てを正確に覚えているのは不可能でしょう(サヴァン症候群等でない限り)。とりわけ僕は自分の記憶にあまり自信がありません。であるならば行動を記憶に依存させている時点で、上手いとはいえないですよね。

記憶に頼れないならどうするか。記録(きろく)に頼ればいいのです。もし薬の服用について正確に記録したものが手元にあれば、当然、その日、すでに薬を飲んだかどうかの判断も正確になります。

ただ問題はその記録を取るのが面倒だという話。行動を変える上で記録はとても強力なのですが、記録自体の負担があるためなかなか定着しないことがあります。記録を取るなら負担を大きく軽減する工夫が必要です。

僕の場合は、薬のシートの裏側に予め日付を書くようにしました。文章で上手く伝わるか心配ですが、錠剤を押し出すと破ける部分がありますよね。そこに日付の数字を書いておくんです。

するとどうなるかというと、例えば今日が10日だとして、シートの10日の部分をみて破けていれば、すでに薬を飲んだことが分かります。反対に10日の部分がまだ破けていないのであれば、今日の分の薬を飲んでいないことになります。

こうしておけば、最初に油性ペンで日付を書いておく手間はかかりますが、日々の記録自体には全く負担がかかりません(普通に薬をシートから取り出して飲んでいるだけなので)。この工夫によって、僕は自分が薬を飲んだかどうかについて、記憶ではなく記録に基づき正確に判断できるようになりました。

めっちゃストレスが減って、めでたしめでたしです。

 

以上、行動科学(行動分析学)を応用した忘れっぽい問題への対処例でした。

忘れっぽい問題に対して「気をつけよう」とか「なんとか覚えておくようにしよう」というアプローチで解決するのは、個人的にはナンセンスだと思っています。っていうか、そういうアプローチは諦めました。どうしたって忘れてしまうのだから、忘れてしまっても問題ないように工夫しよう、という考え方です。

今回ご紹介した方法をそのまま皆さんが使えるわけではありませんが(それぞれ異なる環境・前提があるので)、参考にはなるんじゃないかと思います。