行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動を変えるアドバイスには2つの優れた点がある

僕たちは拙い振る舞いを目にしてしまうと、ついつい口を出したくなるときがあります。

例えば、自分より経験が少ない部下や後輩の仕事ぶりをみたとき、どうしたって不満に思う部分が見つかります。それについて指摘して「次から〇〇して」とアドバイスしちゃうわけです。それでどうなるかというと、以前とほとんど変わらない。

こういうことは職場に限らず、日常でたくさん起こっていますよね。子供に勉強しなさいといっても勉強しないだとか、配偶者に〇〇した方がいいよといっても聞き入れてもらえなかったりとか(あるいは文句を言われることすら)。

せっかくのアドバイスが全く機能しないなんてことは、よくある話なわけです。

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では、なぜアドバイスでヒトの行動は変わらないのか。例によって行動分析学の観点から考察していきたいと思います。

大抵のアドバイスが失敗する理由を知っておこう

まず、行動はその行動に伴う結果によってコントロールされています。行動してすぐにいいこと(欲しいものが手に入ったり嫌なものを避けられたり)があれば、その行動は定着します。しかし、行動しても何も起きなかったり、嫌なことが起きるのであれば、その行動は定着しません。

行動の後に何が起きるかが重要なのです。

しかし、アドバイスとは基本的に「行動の前」に生じる刺激です。つまりアドバイスそのものには行動を変える力は全くありません。行動を変えたいのであれば、行動の後に生じる結果を変える工夫が求められるわけです。

 

またアドバイスへの反発が原因で、行動を変えるどころではないこともあります。カウンターコントロールといって、行動自体を直接変えようとすると反発がおきる事象のこと。

そもそも「いま生じている行動」は、その行動の結果によって定着したものです。外からみて拙いものであったとしても、本人にとっては行動を繰り返すだけの何らかのメリットがあります。

そういった行動を無理やり止めさせようとしたり、変えさせようとすることは、相手の攻撃的な反応(≒反発)を引き出すきっかけとなり得ます。

 

さて、アドバイスが機能しない理由は他にも考えられます(多いですね!)。その理由を説明するために、まずアドバイスが有効に機能する状況を押さえておきましょう。

アドバイスがプロンプトとしての役割を持ち、適切な行動をとってすぐに良い結果が得られた場合、アドバイスは行動を変化させるきっかけになります。

例えば、外国人観光客が電車の改札を通ろうとして、切符の入れ方が分からず何度も止められていたとしましょう。そんなとき切符の入れ方をアドバイスして、その外国人がそのとおりに行動したとするなら、すぐに「改札を通過できた」という良い結果が得られるはずです。そしてその結果によって、次に改札を通るときには、適切に切符を入れることができることでしょう。

このようにアドバイスが適切な行動のきかっけとして働き、すぐに良い結果が得られるような状況においては、行動を変えることが可能です。…ところが、そんなアドバイスが有効に働くはずの状況においてさえ、やっぱり上手くいかないことがあるのです。

なるほど!と思えるが、行動は変わらないアドバイスとは?

本来はアドバイスが効くはずの状況で機能しない理由の一つは、アドバイスの表現が抽象的な場合です。

例えばブログやメルマガ等で文章を書く際のアドバイスとして、「読み手の目線で書くといい」というものがあります。なるほどと思えるアドバイスですが、しかし読み手目線で書くとは具体的にどのような行動を実行すればいいのでしょうか。正直いって、このアドバイスから具体的な行動を導き出せる人は、すでにある程度は読み手目線の文章を書けている人だと思います。

抽象的なアドバイスは、具体的な行動に落とし込むことが難しいのです。せっかくアドバイスを聞く気になっている人であっても、なかなか行動を変えるには至りません。

 

ではアドバイスが具体的であれば大丈夫かというと、そういうわけでもありません。アドバイスを機能させるのは本当に難しいのです。

アドバイスが有効に機能する状況であり、かつ具体的な行動を提示できていたとしても、「能力不足」が原因で実行が難しいことがあります。

例えば、駅まで歩くと20分かかるとして、このままだと間に合わなくて困っているとしましょう。そこで「自転車に乗れば5分で着くよ、この自転車貸してあげる」とアドバイスしたとして、もしその人が自転車に乗ることができなかったとしたらどうでしょうか。当然、行動は変わりません(少なくともアドバイス通りに自転車に乗ることはできない)。

つまりアドバイスとは、相手の能力を想定した上で、実行可能な行動を提示しなければならないということです。

 

以上を踏まえ、アドバイスを有効に活用するポイントは次の通り。カウンターコントロールによる反発を避けつつ、知らない・できない・やらないの3つの壁のどれをクリアする必要があるのかを意識してアドバイスする、です。

相手から反発されないアドバイスの仕方とは?

アドバイスを有効に活用するポイントは次の2つです。

  1. カウンターコントロールによる反発を避ける
  2. 知らない・できない・やらないの3つの壁を意識してアドバイスする

まずはカウンターコントロールについて。カウンターコントロールとは何だったか、少し復習しましょう。カウンターコントロールとは、行動そのものを無理やり変えようとして相手の反発を招いてしまうこと。

例えば先にメールの返信を終わらせてから、明日の会議資料を作ろうとしているところに、上司から「メールとかあとでいいから先に資料作って」と言われたとしましょう。上司のいうことなので従うかもしれませんが、あまり気分が良くないと思います。

こういったアドバイスした人への反発が、行動の変容を妨げてしまうことがあるわけです。カウンターコントロールが起きないようになるべく上手くアドバイスしたいものです。

 

では、どうすればカウンターコントロールを防げるのでしょうか。一番簡単なのは「相手が求めているときにアドバイスする」です。

この場合、相手はすでに何か行動を変えなければならないという文脈にあるため、その流れに沿ったアドバイスは受け入れやすいものになるはず。なるほどと思えるようなアドバイスをしてあげれば、行動が変わるきっかけになる可能性が高いです。

新しい行動が定着するかどうかは行動の結果次第ですが、少なくとも一歩目は踏み出してくれるでしょう。

 

カウンターコントロールを防ぐという観点では、相手との関係性にも注意したいところ。

例えばアドバイスしてくれる人のことを尊敬していて、機会があればいくらでも話を聞いてみたいと思っている相手なら、その人がくれたアドバイスは素直に受け取れるはずです。一方でライバル視していたり、下にみている相手からのアドバイスだと、カチンと来たりして反論したくなってしまいます。人間ですので、そういうこともありますよね。

つまりカウンターコントロールをなるべく避けたいのであれば、普段から相手とどのような関係性を築けているかは重要な要因だということです。強く尊敬されている必要はないかもしれませんが、気安くフィードバックしあえる関係であれば、反発されることは少ないかもしれませんね。尊敬というより、互いに尊重しあえる関係といった感じでしょうか。

 

最後の方法としては、アドバイスを放棄して、こっそり結果をコントロールする工夫を導入してみることです。

アドバイスを放棄しちゃったら、テーマから逸脱しているような気がしないでもないですが気にしません。相手が今よりも少しでも適切な行動を実行したら、それによって良い結果が得られるように工夫してみてください。

工夫といっても大したものでなくてもいいのです。例えば、いまよりもちょっといい行動が生じたら、すかさずそのことをフィードバックしてみるといいでしょう。

これは所謂「褒める」というものではなく、観ている・評価しているといった感じのフィードバックです。以前よりも適切に行動できていることを自覚してもらうことに主眼をおいてみてください。これは相手の自己評価を促すことによる行動の定着を狙ったものです。

最終的には相手次第になってしまいますが、カウンターコントロールに陥って反発を招くよりは数段いいでしょう。

以上、カウンターコントロールを避けながらアドバイスで行動を変える3つの方法でした。

アドバイスで行動を変える3つのポイント

続いて知らない・できない・やらないの3つの壁について説明します。

  1. カウンターコントロールによる反発を避ける
  2. 知らない・できない・やらないの3つの壁を意識してアドバイスする

まず前提として、相手がアドバイスを受け入れやすい状態であることが大切です。相手からアドバイスを求めてきたとか、アドバイスを受けれいてもらいやすい関係性であるとか、ですね。詳しくは前章を読み返してください。

その上で、受け取ってもらえたアドバイスが有効に機能するように「知らない・できない・やらない」の3つの壁を意識します。

 

機能しないアドバイスの一つに「抽象的な表現のため具体的な行動に落とし込めない」というものがありました。例えば「相手目線の文章を書こう」とかいうもの。文章を書くことにすいての十分な知識と経験がなければ、このアドバイスから有効な行動は導き出せないでしょう。

アドバイスから具体的な行動を定義できない状態は「知らないの壁」に躓いています。必要な情報が不足しているんですね。

アドバイスする場合は、相手の知識レベルを考慮に入れた上で、必要であれば「相手目線の文章を書けるようになるといい。まずは書いた文章を誰かに読んでもらって、感想をもらうことから始めたらどうだろう。」のように、実際にアクションできる具体的な表現にしましょう。

 

次に「具体的な行動は分かるが実行できない」という問題があります。例えば「自転車に乗れば次の電車に間に合うよ」といわれても、自転車に乗ることができなければ、たとえ自転車を貸してもらえたとしても実行しようがありません。

これが「できないの壁」です。

この場合、アドバイスの改善方法は2つあります。1つはその人のできることの範囲内でアドバイスするということ。自転車に乗ることはできなくても、走ることはできるかもしれませんね。

もう1つはより長期的な視野に立って、トレーニング方法を伝えることです。緊急性の高い問題でなければ、相手の選択肢を増やすことになりますので、有効な方法の一つといえるでしょう。

 

最後に「アドバイスを実際に試したが定着しなかった」という問題です。

最初の方で書きましたが、行動が定着するためには、行動した後にメリットのある結果が生じる必要があります。トレーニング方法をアドバイスされて、その通りに実践したとして、なかなか成果が出なかったとしたら、一定のレベルに到達する前に挫折してしまう可能性が高いです。

この場合、アドバイスの仕方というよりも、結果に対する工夫が求められます。例えばトレーニング量を記録してグラフ化したり、そのグラフが複数人の目に触れるようにしたり、一定日数継続できたらご褒美がもらえるようにする等の「行動が継続できる仕組み」を作っておくといいでしょう。

以上、3つの壁を意識したアドバイスが機能するための工夫でした。