行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

ノウハウコレクターを脱し問題解決の実践者になるために大切なこと

世の中には様々な問題を解決するためのノウハウがたくさんあります。そんな問題解決のノウハウは、僕たちにとって魅力的なものです。長年悩まされてきた問題が解決できるかもしれない、いままでできなくて諦めていたことができるかもしれないとなれば、それは僕たちにとって希望ですよね。

どういうノウハウが求められているかは、ビジネス書のランキングをみてみると何となく雰囲気がわかります。ちなみにこの記事を書いているときにAmazonを覗いてみると、

  • 情報生産者になる
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となっていました。なるほど(?)

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さて、このようなノウハウですが、大抵は問題の解決に至りません。ノウハウそのものの問題というよりは、ノウハウを使おうとした人の側の問題ではありますが、結果としては解決しないことが多いのです。

でも大丈夫です。また次の新しいノウハウがやってきますので。

新しいノウハウ(あるいは新しい装いをした旧ノウハウ)は、やっぱり魅力的にみえますので、やってみようって気になります。そうやって次々とノウハウを求めることを指して、ノウハウコレクターなどと呼ばれます。

脱ノウハウコレクターに必要なものとは?

ノウハウコレクターの問題は2つです。

1つ目はちゃんと実行できているかどうかです。あらゆる問題解決の起点は「行動を変えること」に他なりません。どれだけ優れたノウハウであろうとも、行動しなければ何の役にも立たないのは当たり前ですよね。

もう1つの問題は、そのノウハウにはちゃんと効果があるかという点。「問題を解決してくれそう」と「実際に問題が解決した」の間には大きな差があります。そのノウハウは、本当に僕たちの問題に効果があるのでしょうか。そこをしっかりと検証する必要があります。

つまり、ノウハウコレクターの問題を解決するには、ノウハウを実行し検証するための枠組みが必要だということです。

自分に必要なノウハウだけを選別する方法

まずはノウハウを検証する方法についてお伝えします。ずばり「シングルケースデザイン」の話です。ええ、またです。っていうかシングルケースデザインはセルフマネジメントの根幹なので、このブログでは何度でも出てきてしまいますよねー。

さて。

あるノウハウに効果があるかを検証するには、どういう方法が考えられるでしょうか?

有名な方法の1つが集団比較法です。ノウハウを適用したA集団と、ノウハウを使わないB集団とに分けて比較したときに、ノウハウを適用したA集団に有意な効果が認められれば、それはノウハウに何らかの効用があると考えてもいいでしょう、ってやり方です。

とても筋の通った方法ですよね。何もしない集団に比べて十分な変化があることは、そのノウハウに高い確率で一定の効果があることを示していると思います。

 

ただ問題が2点。個人で試すには十分なサンプル数を用意するのが難しいので、集団比較法を自分のために使える人は限られているでしょう。

もう一つの問題は、ノウハウの有効性が確認できたとしても、それが自分の問題を解決してくれるかどうかは分からないという点です。集団の70%に効果が認められとして、自分がその70%に入っているのか、それとも効果のなかった30%の方なのかは分かりません。

これは集団比較法に欠陥があるわけではなく、単に個人の問題解決の検証手段としては向いていないということ。一方で集団向けの方策を検証するにはとても有効で、政策・薬・マーケティングなどの分野では活躍しているかと思います。

 

というわけで個人の問題解決の検証をしたいのであれば、シングルケースデザインを使いましょう。シングルケースデザインの手順は簡単にいうと次の通り。

  1. 記録・検証する行動またはパフォーマンスを決める
  2. ノウハウを適用せずに一定期間、記録を取る(ベースライン期)
  3. ノウハウを適用して記録を取る(介入期)
  4. ベースライン期と介入期の「傾向の変化」を比較する

簡単にいえば「何もしない期間」と「ノウハウを使った期間」に変化があれば、そのノウハウは自分に使えそうだねってことです。

シングルケースデザインは、個人が自分のために使える最も使い勝手の良い検証方法です。このやり方を押さえておくだけで、自分に必要なノウハウを選別できるようになるのでとてもオススメです。

シングルケースデザインについて勉強してみたい方は、次の書籍を読んでみてください。

応用行動分析学―ヒューマンサービスを改善する行動科学 (ワードマップ)

応用行動分析学―ヒューマンサービスを改善する行動科学 (ワードマップ)

  • 作者:島宗理
  • 発売日: 2019/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

ノウハウをちゃんと実行するためのフィードバック

さて、ノウハウを選別・検証する方法をもつことには、副次的なメリットもあります。そしてそのメリットは「ノウハウの実行」を後押してくれますので、結果としてシングルケースデザインを実践することは、ノウハウを実行し検証するための枠組みとなるのです。

 
では副次的なメリットとは何かというと、記録とそのグラフ化によるフィードバックです。

もともと記録を取ることには、それ自体に行動を促す力もあります。体重を測るだけでダイエットに成功した人もいますが、記録によって行動が促された例の一つと考えてもいいでしょう。

ですので、記録を取り、その記録を時系列に並べてグラフ化すれば、それ自体が行動を変える工夫になります。

 

もちろん、記録を取るだけでは行動が変わらないことも当然あります。そこで記録とグラフを「自己評価」のために活用します。

自己評価とは、事前に定めた基準に対し、自分のパフォーマンスがどの程度なのかを自己判断することです。例えば、週に3日、30分以上のジョギングをすると基準を定め、実際に走った記録と比較して自分の取り組みが十分だったのかを評価します。

このようなに予め基準を定め、実際の取り組みを事後に評価するという一連の流れは、非常に強力に行動を促します。とりわけ基準を達成すべき理由が明確になっていれば、行動を促す力はより強くなることでしょう。

 

このような自己評価を機能させるためにも、シングルケースデザインに基づいた記録は有効なのです。世の中にある様々なノウハウを実行し、選別・検証するための方法として、シングルケースデザインほど優れたものはありません。

ノウハウコレクターから脱し、自分の問題を解決するために、あるいは自分たちのチームや組織の問題を解決するための大前提として、ぜひ押さえておいて欲しい手法です。