科学的な問題解決とは「再現性」を見つけること
行動科学(行動分析学)を用いた問題解決では、「科学的」であることを自らに課しています。
”科学的”の定義は様々あって結構ややこしいのですが、その1つに再現性があります。
再現性とは、同一条件下で同じ手法を使えば、それまでとほぼ同じ結果が得られるというもの。
問題解決においては、この再現性を確認することが有効な手段の発見に繋がります。
水を飲んだら集中できた…それは本当に有効な手段なのか?
例えば、資格試験の勉強をしているとしましょう。
ある時、勉強中に水を飲んだらめちゃくちゃ集中できたような気がして、勉強のペースも良かったとしましょう。
ではこの人にとって、水を飲むということは勉強に集中するための有効な手段なのでしょうか。
残念ながらこの段階ではそうとは言い切れません。
もしかしたら前日の睡眠の状況だったり、仕事の忙しさといったことの方が影響が大きいのかもしれません。
あるいは、たまたま水分不足になってパフォーマンスが低下していたので、水分摂取によって本来のパフォーマンスに戻ったのかもしれません。
有効な手段であることが確認できなければ迷路に嵌る
つまり、水以外の様々な要因が絡み合って、行動が変化した可能性があるので「水を飲んだら集中できた」というだけでは、有効な手段を見つけたとは言い難いのです。
もし水が原因でなかったとしたら、また別の日に勉強しようとした時に、水を飲んだけど集中できない…という事態が生じてしまいます。
そうするとまた新しい、そして偶々うまくいく解決策を探さなくてはなりません。
あまり効率が良いとは言えないですよね。
再現性を確認するにはシングルケースデザイン
集団比較法で再現性を確認する
この再現性を客観的に示すために、集団同士を比較するという手法があります。
人や動物を集団Aと集団Bに分け、集団Aのみに何らかの操作を加えます。
結果、何の操作もしなかった集団Bに比べて一定の変化が生じたのであれば、その操作は人々に影響を与えると判断することができるわけです。
こういった方法は、例えば経済問題について有効な政策を検証したりとか、ある薬の成分についての有効性や副作用等の危険性を判断するのには、とても使える方法です。
マーケティングなんかでも用いられていますよね(ABテストなど)。
ただこの集団比較法は、残念なことに「目の前のこの人の問題」についてはあまり機能しません。
集団Aの60%の人に変化があったからといって、目の前のこの人がその60%に含まれるかどうかは分からないからです。
目の前の個人の行動について再現性を検証する方法
そこで行動分析学で用いられている、目の前の個人の行動について再現性を検証する方法が「シングルケースデザイン」です。
シングルケースデザインの最もシンプルな形は、何も工夫しない期間の行動を記録し、その後、改善のための工夫を導入し
再度同様の記録を取り、その2つの記録を比較することです。
言葉で説明するとややこしいので下記のグラフを観ていただくといいかもしれません。
最初の期間と改善策導入後の期間で、傾向の変化が見られるようであれば、その改善策は一定の効果を持っていたと判断します。
これをABデザインといいます。
とはいえ、先に書いた「水を飲んだら集中できた」の例ように、もしかしたら何か別の要因が影響して行動を変化させたのかもしれません。
ですので、より確かな再現性を確認したい場合は、一度導入した工夫を取り除いて、行動が元に戻ってしまうかを検証したりします。
面倒そうに思えるかもしれませんが、「目の前のこの人の行動」について、再現性のある改善手法を見つけたいのであれば、これ以上に楽な方法は無いと思います。
シングルケースデザインは行動を変える条件を見つけるのに最適
再現性のある改善手法が見つかると、とても便利です。
例えば、資格試験の勉強に集中するための具体的な条件が分かるわけです。
勉強に集中したければ、その条件を整えればいいのです。
あるいは、時間やお金の使い方をコントロールする条件、早起きするための条件、面倒なことを先延ばしせずに取り組むための条件などを見つけられたら…そして、それらの条件さえ整えれば思い通りに行動できるとしたらどうでしょうか。
シングルケースデザインという手法は、僕たち個人個人の行動を変えるための条件を見つけるために、最も有効は方法なのです。