行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

自分で行動を強化することで行動を維持・変化させる

セルフマネジメントのための3つの枠組みは、行動分析学の理論に基づいています。

自身の行動についての現状を理解したり、改善方法を考えるためのガイドラインとして使うと便利です。

何もなしに行動の原理原則だけでいきなり分析するよりは、かなり簡単になります。

ご褒美を使って行動にメリットを伴わせる「自己強化」

今回はその3つ目の枠組である

  • 動機づけ要因を選択・準備し、行動に伴うメリット(ご褒美等)を自らに与える

についてです。

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行動科学的セルフマネジメントの枠組み

ご褒美を使うなら「選択」と「準備」はセット

行動した自分で自分にご褒美を与える等の取り組みのことを「自己強化」といいます。

自己強化は次の2つの要素から構成されています。

  1. ご褒美として与えるものを予め選択・準備する
  2. 行動や目標の達成に伴い、実際にご褒美を自分に与える

具体的には例えば次のような取り組み方になります。

ルールを達成したらご褒美を自分に与える

筋トレの継続を目指していて「週3日以上、筋トレすること」を目標とします。

ご褒美として「ワインやステーキ肉」を選択し、「週の目標を達成できたらご褒美を購入してもいい」というルールを設定します。

そして今日、筋トレしたら「その内容と筋トレしたことを示す○を手帳のカレンダーに記入」します。

○の数をみれば今週、何回筋トレしたかは一目瞭然です。

○が3つ以上あることでご褒美を購入する権利が得られたことが分かりますし、まだ3つになってなくても○を記入するとご褒美に近づいていることを自覚できます。

その後、買い物に出た際に「ワインまたはステーキ肉のどちらかを実際に購入する」ことで自己強化することになります。

ご褒美を使うなら、その魅力が低下しないようにする

もう少し補足すると、この例ではご褒美を「ワインやステーキ肉」としていますが、このご褒美の魅力が低下しないようにする必要があります。

例えば、筋トレするしないに関わらず、普段からワインを飲んだり、ステーキを食べたりしていたとしたら、わざわざ目標を達成してまでご褒美を得ようとする動機は生じないでしょう。

目標を達成するまではご褒美として選択した「ワインやステーキ肉」を我慢する必要があるのです。

冒頭に「ご褒美の選択・準備」と書きましたが、ご褒美を選択したなら、その魅力が維持されるように準備しなければなりません。

目標を達成するまで、そのご褒美を予め日常から排除しておくことで、そのご褒美の魅力が低下せずに済む(あるいは魅力を高める効果を生む)のです。

ご褒美の我慢ができない場合の3つの対策

このようなご褒美の魅力を維持するための行動自体を実行するのが難しい場合もあります。

つまり、目標を達成していないにも関わらず、我慢できずにご褒美を自分に与えてしまうのです。

このような場合は、次の3つを考慮してみるといいでしょう。

  1. ご褒美を得るためのルールを変える
  2. ご褒美ではなくペナルティを使う
  3. 他者との関わりを前提とする

ルールを変えてご褒美を”近く”する

ご褒美を我慢できないのであれば、ご褒美を得るためのルールを変えてみるといいかもしれません。

例えば「週3日以上の筋トレで、ご褒美を購入してもいい」ではなく「今日筋トレしたら明日、ご褒美を購入してもいい」にルールを変更してみます。

結果として、こちらの方が「週3日以上の筋トレ」という目標を達成しやすくなるかもしれません。

あるいはご褒美を変えてみるのもいいかもしれません。

日常的に得ているものをご褒美と、効果は高いのですが、その分、我慢するのは大変になります。

月に1〜2回、ワインを楽しんでいる人と、日常的にワインを飲んでいる人とでは、後者の方が我慢するのは難しいでしょう。

ですので選択したご褒美を我慢するのが難しい場合は、「週に1回くらいのちょっとした贅沢」という感じのご褒美を使うといいでしょう。

ご褒美の代わりにペナルティを使う

ご褒美ではなくペナルティを使う方法もあります。

ご褒美の代わりに、どうしても避けたいような嫌なことをペナルティをして選択し、予め設定したルールを達成できなかったらペナルティを負うようにします。

ご褒美は我慢しなければ魅力を維持できませんが、ペナルティとして選択するようなことは普段から避けていることですので、ペナルティとしての負の魅力は自然と維持されることになります。

ペナルティを避けるという理由で、ルールの達成を目指すことができます。

上手に他者を巻き込んでいくこともセルフマネジメント

自分で自分にペナルティを与えられるか問題

ペナルティを使う場合の問題は、準備ではなく「自己強化」の部分にあるかもしれません。

ルールを守ることができなかったとき、自身にペナルティを課すことになりますが、それ自体、嫌なことで避けたいことなはずです。

結果として、本当はペナルティを負わなければならない状況を「なぁなぁ」にしてしまい、ルールを有名無実化してしまうかもしれません。

ペナルティを使う場合は、ルールを守れなかったときの自分へのペナルティの与え方に工夫が必要です。

何らかのツールを使用するとか、他者からペナルティを提示してもらう等を考慮するといいでしょう。

ご褒美の制御を他者に委ねてしまう

他者との関わりを考慮するのは、ご褒美を使う場合にも有効に機能します。

ご褒美を自分で我慢するのが難しいのであれば、他者にそれをコントロールしてもらったり、多少の関与をしてもらうことが考えられます。

例えば鍵付きのワインセラーにワインを入れておき、鍵自体は家族なり友人なりに預けてしまいましょう。

目標を達成したことを家族や友人に証明することで、鍵を一時的に返してもらえるようにすれば、強制的にご褒美を我慢することができます。

あるいは家族にルールを宣言することで、ルールを破ってワインを飲んだときにそれを指摘されるようにしておきます。

指摘されることを避けるために、ルールを破ってまでワインを飲もうとはしなくなる可能性があります。

自己完結した世界よりも他者との関わりを前提とする

セルフマネジメントというと、つい自分の行動を自分で制御することをイメージしがちですが、上手に他者を巻き込んでいくこともセルフマネジメントの重要なスキルだといえます。

ご褒美やペナルティを使わなくても、ダイエットグループに参加して目標を宣言し、筋トレの取り組みについて報告することにすれば、それだけで行動に影響を与える可能性が十分にあります。

あるいは目標そのものを他者との関わりを前提にしてもいいです。

例えば「2ヶ月後に友達と海に遊びに行ったときに恥ずかしくないように筋トレを頑張る」とか「秋のマラソン大会に申し込んだのでジョギングを頑張る」といった文脈の方が、自己完結した世界で頑張るよりも行動を変えやすい可能性は十分にあります。

自分自身の制御だけよりも、他者の関わりを前提とした方が上手くいくのであれば、それを積極的に活用していくことは十分に有効な工夫だといえます。