行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

具体的な行動の定義と記録、そして行動しやすい環境の整備

セルフマネジメントのための3つの枠組みは、行動分析学の理論に基づいています。

自身の行動についての現状を理解したり、改善方法を考えるためのガイドラインとして使うと便利です。

何もなしに行動の原理原則だけでいきなり分析するよりは、かなり簡単になります。

具体的な行動の定義と記録が、行動を変える自信を培う

さて、今回はその1つ目の枠組である

  • 変えるべき具体的な行動を定義し、行動しやすい環境を整備し、行動に関する記録を取る

についてです。

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行動科学的セルフマネジメントの3つの枠組み

具体的な行動とは何か?

行動の問題を解決するために最初にするべきことは、変えたい行動を具体的に定義することです。

セルフマネジメントにおいてもこれは同じ。

例えば「ダイエットする」ではなく、より具体的に「ジョギングする」「食事内容のメモを取る」「摂取カロリーを計算する」とします。

あるいは「節約する」ではなく「レシートをもらう」「今日の分のレシートをExcelにまとめる」とします。

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抽象的なスローガンと具体的な行動の違い

具体的だから記録することができる

では、なぜ行動を具体的に定義すべきなのでしょうか。

それは改善すべき行動がハッキリと分かるということに加え、その行動について記録を取ることが可能になるからです。

記録を取ると、それだけで行動が改善してしまうこともあります。

いくつかの研究によれば、自己記録の影響によって行動の変化が確認されているとのこと。

また記録による改善効果がなかったとしても、科学的なアプローチを支える重要な要素となります。

”科学的”という言葉にどのような意味を持たせるかにもよりますが、本稿では「再現性」に重きをおきます。

ある改善策に再現性が認められたとしたら、その手法は同じ状況・問題に対して繰り返し有効である可能性が高くなります。

反対に再現性がなかった場合、今回はたまたま問題が解決しただけで、その手法自体の有効性には疑問が残ります。

再現性を確認しながら一歩ずつ成長する

再現性のある手法が見つかるということは、セルフマネジメントにおいて「使える引き出し」が1つ増えたということです。

そのようにして使える手段が少しずつ増えていけば、僕たちは目の前の問題に対して無力ではなくなっていきます。

解決できないことよりも、解決できることの方が増えていきます。

そのことはやがて「自分の行動をコントロールすること」に対する自身にもなっていきます。

再現性を確認しながら使える手段を増やしていくことは、セルフマネジメントにおいて自身を成長させていくことと同じなのです。

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再現性ある手法の蓄積は成長につながる

では、再現性とはどのように確認すればいいのでしょうか。

Aという方法を導入したときに行動が変化したとして、このAという方法によって行動が変わったといっていいのでしょうか。

実はこれは結構難しい問題で、全てがコントロールされた実験室の中ならともかく、様々な要因が複雑に絡み合う日常においては、本当に行動を変えた原因を特定できるとは限りません。

そんな中でも行動の因果関係について、ある程度の妥当性をもって推定するためにも記録が必要になります。

再現性を確認するために必要なのが記録

記録を使った再現性のもっとも簡単な確認方法は、改善策の導入前後で、行動の記録に変化があったかを比較することです。

導入前と導入後を比べて、明らかに記録に変化が起きているのであれば、その改善策が有効だった可能性は高いでしょう。

再現性についてより厳密に確認したいのであれば、導入した改善策を一旦止めてみて、行動の記録が以前と同じ状態に戻るかどうかを検証します。

改善策を止めたにも関わらず、行動が以前の状態に戻らないのであれば、もしかすると全く別の要因が行動を変えてしまったのかもしれません。

反対に以前の状態に戻ったのであれば、その改善策の影響だったといってもいいでしょう。

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記録によって改善状況が目視できる事例

このように再現性を確認する方法を「シングルケースデザイン」といいます。

行動分析学の研究でも使用されている手法で、より詳しく知りたいということであれば下記の本を読んでみてください。

応用行動分析学―ヒューマンサービスを改善する行動科学 (ワードマップ)

応用行動分析学―ヒューマンサービスを改善する行動科学 (ワードマップ)

事前準備が行動しやすい環境を作る

具体的な行動を定義し、記録を取ることに加え、行動しやすい環境を整備することも大切です。

適切な行動を適切なタイミングで実行できるように(あるいは止めるように)、そのことを示唆する刺激を自分に用意したり、行動の遂行について躓く部分があるならそれを支援する何かを用意します。

身近にある分かりやすい例でいえば「目覚まし時計」などがそうです。

適切な時間に「起きる」という行動が生じるように、僕たちは予め目覚まし時計をセットします。

目覚まし時計がなければ、もしかしたら適切な時間に起きられる頻度は、いまよりもずっと下がってしまうかもしれません。

あるいは傘を持って出かけるべきかどうかを判断するために、天気予報を見たりするでしょう。

これも適切な行動を遂行しやすくするための支援を、自分で自分に与えていることになります。

ちょっとしたことではありますが、行動の事前準備があるだけで、僕たちは適切に行動できる可能性が高くなるのです。

まとめるとセルフマネジメントのための1つ目の枠組みは、

  1. 変えるべき具体的な行動を定義する
  2. 行動についての記録を取る
  3. 行動しやすい環境を整える

です。

この観点で自身の行動を現状分析してみて、適切に行動するために不足しているものがあれば補い、反対に不適切な行動を促すものが過剰であればそれらを削減・排除することを考えるのです。

それに基づき導入した改善策の効果は、当然、記録を取ることによって確認することになります。