行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動力を引き出す「目標を使った動機づけの方法」

目標を立てたはいいが、達成することができず諦めてしまった。そもそも行動することすら殆どなかった。

これらは目標に関する悩みで上位にランキングしそうですね。

では目標を立てることで行動力を引き出せるとしたらどうでしょうか。その方法を知りたいと思いますか?

僕あるいは僕が関わった人達の例から、目標を立てても全くムダだったケースと、目標を立てることでスイッチが入ったように積極的に行動するようになったケースがあります。

この違いが分析できれば、目標によって行動力を引き出すことができるかもしれません。

この記事でお伝えすることは「目標によって動機づけを成立させ、行動力を引き出すための工夫」についてです。

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動機づけは行動力をどのように引き出すのか?

動機づけとはどのような働きを持っているのか

動機づけと聞くとどのようなイメージを持つでしょうか。

何人かの人に聞いてみたところ、欲求や目的、行動を起こすための何かといった回答をもらいました。どの答えも間違ってはいません。

しかし、ここでは動機づけについてもっと具体的に定義しておきたいと思います。動機づけとは、次の3つの役割をもったものです。

  1. 行動の喚起
  2. 行動の維持
  3. 活動パターンの統制

行動の喚起とは文字通り、行動を呼び起こすことを指しています。行動の維持も分かりやすいです。行動の喚起と維持、つまり行動が起きるだけではなくて、十分な間、行動を維持することも動機づけには求められているわけです。

では、活動パターンの統制とはどのようなものでしょうか。少し分かり難いですが、種々の活動を目標に沿って方向づけるような働きをします。

例えば、ダイエットに関連した動機づけに成功すると、何かを食べるという活動だけでなく、食事内容の選択であったり、食事を口にいれる順番であったり、食後にサプリを飲んだり、食事内容のメモを取ったりといった、様々な行動がダイエットの成功に向けて統制されていきます。

単一の行動だけではなく、目標達成に貢献するであろう様々な行動が方向付けられ、統制されていくのです。

以上が動機づけの話。

動機づけは僕たちの行動力にどう影響するのか

では、その動機づけと行動力の関係はどうなっているのでしょうか。動機づけに成功すれば何となく行動力は高まりそうな気がします。ただ、単なるイメージだけで語るわけにはいきませんんどえ、ここも具体的にみていきましょう。

行動力は次の3つの能力によって支えられています。

  1. 思い立ってから実際に行動するまでの時間が短い
  2. 思い立った事柄を実現できる
  3. 実現にあたっての様々な問題の解決に取り組める

この辺りの詳細については下記の記事で解説していますので、必要でしたら読んでみてください。

www.behavior-assist.jp

ここでは動機づけと行動力の関係についてみていきます。

動機づけの「行動の喚起」は当然ですが、行動力をつくる1つ目の能力である「行動するまでの時間が短い」に直接的に影響を与えます。

また「行動の維持」についていえば「思い立った事柄を実現できる」だとか、「問題の解決に取り組める」といった能力に影響することでしょう。もっともこれらについては、実現までの道筋を考えることや困難からくるネガティブな思考に対処することもなども必要なため、部分的な影響に留まります。

3つの目の「活動パターンの統制」についても、行動の維持と同様に「思い立った事柄を実現できる」能力に、部分的に影響すると考えていいでしょう。

動機づけだけでは行動力は得られないが、それでも十分に効果を見込める

以上を踏まえると、動機づけは行動力を引き出す機能があると考えても良さそうです。ただし、その影響力は部分的なものになりますので、状況次第ではありますが、動機づけに成功しても十分な行動力を得られないという可能性はありそうです。

つまり、行動力は動機づけだけでは得られないが、一方で、その他条件が整っていれば動機づけは行動するのに有効に機能するということでしょう。

目標が行動につながらない理由を分析する

目標と動機づけと行動力と

ここまでは動機づけと行動力の関係についてみてきましたが、この記事のテーマは「目標を使った動機づけの方法」です。ここで目標にも登場してもらいましょう。

部分的な影響力しかないとはいえ、動機づけに成功すれば僕たちは行動力を手にする可能性は十分にあります。そして僕は、目標を立てることだけで数ヶ月〜1年程、積極的に行動するようになった事例を知っています。

つまり目標によって動機づけし、行動力を引き出すことはありえることなのです。

一方で、目標を立てたはいいが全く行動できずに諦めてしまった、という話も良く聞きます。目標によって動機づけできるのであれば、全てとは言わないまでも、幾つかの目標については達成することができているはず。少なくとも、そのために取り組むことはできているはずです。

目標が動機づけを通して行動力を引き出せる場合とそうでない場合の違いは、どこにあるのでしょうか。

行動につながらない目標は「日常から切り離されている」

結論からいうと、目標によって上手く動機づけできないのは「目標が日常から切り離されている」からです。

行動科学(行動分析学)には「動機づけ操作」と呼ばれるものが定義されています。この動機づけ操作の働きの1つが「価値変容効果」です。価値変容効果とは、僕たちが日常的に得られる「変化や刺激」の価値を高めたり低めたりすることをいいます。

ちょっと分かり難い表現ですが、例えば「晩御飯に焼肉に行くので昼食を抜く」というケースを考えてみましょう。この場合、昼食を抜くことが動機づけ操作になり、焼肉という刺激の魅力を高める働きをします。

別の例も紹介します。最近、食べ過ぎによってお腹がやばくなってきました。夏休みを控え、なんと憧れていたあの人と海に泳ぎにいくことになったのです。夏休みまであと1ヶ月。お腹の贅肉を取るために、猛然とダイエットに取り組むようになりました。

この場合は「憧れのあの人と泳ぎにいく約束」が動機づけ操作となり、「お腹の贅肉が減る」という変化の魅力を大いに高めています。

ところでこの例で、来年は海に行こうねという程度の約束だったらどうでしょうか。来年まではまだまだ時間があります。いますぐ頑張ってダイエットしようとはしないでしょう。

”来年に海に行く約束”は動機づけ操作のような形をしていますが、実際には「いまの日常」には関係がありません。日常から切り離された目標とは、このようなもののことをいいます。

目標が「動機づけ」の機能を持つための要点

目標を日常から切り離してしまう要因は3つです。

  1. 目標によって魅力が高まる変化が、いまの日常に存在しない
  2. 目標設定時には変化の魅力が高まったが、日常に戻るとその価値変容効果が失われてしまう(変化の魅力が維持されない)
  3. 目標によって魅力が高まった変化を、獲得する手段がない

これらを踏まえながら目標によって動機づけする方法について解説していきます。

1. 目標を日常的な変化とつなげる

例えば、あなたが副業を始めようとしていて、目標として「ブログで月10万の収入を得よう」を設定したとします。しかし、この目標の立て方ではおそらく「なかなか増えない収入」という現実にぶつかり、挫折してしまう可能性が高いです。

これから副業を始めようとする人にとって、ブログで得られる収入という「変化」は日常的なものではありません。数ヶ月から場合によっては年単位で、魅力を感じられる程の売上を得られることはないでしょう。

こういうった目標は一時的な「行動の喚起」にはつながりますが、「行動の維持」はできません。ブログを書き始めて最初だけ頑張った、という結果になりやすいです。

対策は2つ。

大きな目標を身近で小さな結果へと分解する

1つは「分解と具体化」です。大きな目標をブレイクダウンしていくことで、身近に感じられる小さな結果に辿り着くことがあります。

先程のブログの例でいえば「記事1つあたり10PV/日」という結果であれば、そんなに難しくないかもしれません。あるいは「100記事書いて、そのうちの5個で100PV/日を達成する」のも、月10万の収入と比べれば身近になるでしょう。

目標を具体的な小目標へと分解していくことで、このような身近に感じられる結果を見つけられることがあります。可能であれば毎日〜毎週得られる結果へと分解できるといいでしょう。

ここで大切なのは「自分にとって身近に感じられること」と「小さな結果の積み重ねの向こうに目標の達成があると信じられること」です。前者が欠けてしまえば目標は日常から切り離されてしまいますし、後者が欠けてしまうと小さな結果に魅力が感じられなくなります。

関心あるテーマに沿って目標を立てる

もう1つの対策は「関心あるテーマと関係させる」です。結果が得られなくても、行動することそれ自体に魅力を感じられれば、行動の維持は容易です。

これもブログの例で説明します。ブログに限らず、何らかの文章を書いたことがある人なら覚えがあるかと思いますが、書くことそれ自体に充実感を感じることがあります。

僕であればこういった記事を書くことは、その先に自分のビジネスの成果を見ていますが、同時に文章を書くことに面白みを感じています。それは書いている内容が自分の関心あるテーマに沿ったものだからです。

そのためにも、目標そのものを関心あるテーマと関係させておくこといいでしょう。そうすると目標を行動へと具体化していった時に、行動自体に関心ある要素が含まれる可能性が高くなります。

2. 視覚・聴覚・言語をフル活用してやる気を刺激する

目標を立てた時の環境と日常の環境は異なっている

目標を立てた時はやる気に満ちあふれていたのに、日常を過ごすうちにそれが失われて言うことがあります。こうなってしまう原因は「目標を立てているときの環境」と「日常の環境」との違いにあります。

目標を立てる時は、色々なことを考えます。自分の現状を振り返ってみたり、目標を達成した後に得られるであろう恩恵について妄想してみたり。そういったことが刺激となり、目標達成にやる気を感じるのです。

しかし、いつもの日常に戻ってしまえば、いちいち現状を振り返ったりもしませんし、目標達成後の妄想も次第にやらなくなります。つまり、やる気を刺激するものが日常には無いのです。

無いなら作ればいい。

視覚的・聴覚的・言語的にやる気を刺激するものを取り込む

視覚的に、聴覚的に、言語的に、自分を刺激するものを日常の中に取り込んでしまいましょう。

例えば収入を増やすことが目標で、達成したら前から憧れだった車を買ったり、海外旅行に行ったりしよう、なんて妄想していたとします。それなら憧れの車、旅行先の写真や動画を手元のスマホ等に入れてしまいましょう。

あるいはブログのPVを伸ばすことが目標なら、○ヶ月で○万PV!といった記事を読んで見るのも刺激になるかもしれませんね。検索すればいっぱい出てきます。

こういった「やる気を刺激するもの」を日常に取り込んでおけば、目標を立てたときに生じていた価値変容効果を、継続して得ることができます。

バリエーションと頻度に注意して飽きないようにする

この方法を使う場合は「バリエーション」と「頻度」に注意してください。

例えばどんなに好きな車の写真であっても、毎日同じ画像ばかりを見ていたのでは飽きてしまいます。できるだけ多くのバリエーションで、写真も動画も用意しておきましょう。また義務のように毎日見るのではなく、見たくなった時にみるという程度に押さえておくといいかと思います。

3. できないことをできるようにする場合は、動機づけ以外の工夫を使う

最後のポイントについてお伝えします。動機づけが効果を発揮するのは、実は「いまできる行動の頻度を増やすこと」だったりします。何がいいたいかというと、どんなに動機づけしても、それだけでは「できないことができるようにはならない」ということです。

目標の分解で例として使いましたが、ブログで「記事1つあたり10PV/日」という小目標は、人によってはハードルが高いかもしれません。ブログをいままで書いたことがない、あるいは書いたことがあっても数行の日記程度のものだと、いきなり10PV/日にはならないでしょう。

つまりその少目標を達成するために必要な行動が不足しているのです。能力やスキルの不足、と言い換えてもいいでしょう。

この場合、必要なのはトレーニングになります。いきなり目標に関連した結果を得ようとするのではなく、その結果の獲得に役立つ行動の獲得を目指しましょう。

どのような質と量の行動が求められているのかを調べ、その行動ができるようになるための練習と工夫をします。できることのレベルを少しずつ高めていって、結果を得るための準備を整えるのです。

この場合、目標の動機づけだけで行動を維持するのは難しいかもしれません。練習しても目標に近づいている感じがあまりしませんので。下記の記事を参考に「行動するための仕組み」を整えておくことをおすすめします。

www.behavior-assist.jp

目標を立てるなら日常に取り込む工夫まで考えよう

目標で動機づけする方法について、いくつかお伝えしてきました。

ここまで読んでいただいて分かるかと思いますが、目標は立てただけでは行動力を引き出すことはできません。目標から更に一方踏み込んで、日常の中ある変化とつなげたり、目標を立てた時と同じようにやる気を刺激するものを取り入れたりと、日常を意識した工夫をする必要があるのです。

目標を設定したら、工夫して日常に取り込む。

そこまでできてこそ、目標による動機づけが成功し、行動力が引き出されるのです。

まとめ

本記事でお伝えしたことは次の3点です。

  1. 動機づけとには「行動の喚起」「行動の維持」「活動パターンの統制」という3つの働きがある。動機づけによって必ず行動力が高まるわけではないが、部分的な影響力を持っており、種々の条件が整っているなら十分に効果が期待できる。
  2. 目標によって動機づけに成功しているなら、ある程度、目標を達成できるだろうし、達成できないにしてもそれに向けて実際に取り組むことができるはず。しかしながら、実際には目標を立てたまま何もすることなく挫折することが多い。その理由は目標が日常と切り離されてしまっているからである。
  3. 目標による動機づけを成立させたいなら、(1)目標を身近に感じられる具体的な小目標へと分解すること、(2)関心あるテーマにそって目標を立てること、(3) 目標を立てた時と同種のやる気を刺激するために、視覚や聴覚に働きかけるもの(画像や動画等)を日常に取り入れる、といった工夫をしておこう。