行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

行動できない”沼”から抜け出し「行動する流れ」を作り出す方法

やろうと決めて、最初のうちは順調に行動できていたのに、一度、うまく行動できない日があって、それ以降、どうにも行動できない状態にハマってしまう。そして行動できない状態に一度ハマってしまうと、なかなか抜け出すことができない。

…という厄介な行動の問題にどう対処すればいいのでしょうか。

ひとまず「行動できているとき」と「行動できないでいるとき」で何が違うのかを考えてみましょう。

キーワードは「流れ」です。スポーツなんかで試合の流れなんて言ったりしますが、その「流れ」です。調子の良し悪しと捉えてもらっても良いかもですね。

f:id:h-yano:20100311112059j:plain

今日の行動は明日の行動に影響を与える

僕たちが行動できているときというのは、行動できたこと自体が僕たちの行動を後押ししてくれます。

昨日もちゃんと行動できた、一昨日もちゃんと行動した。そんな前提が今日の行動をほんの少し後押ししてくれます。行動しないでいるよりも、行動することが選ばれる可能性を高めてくれます。

行動することそのものが次の行動に影響を与えているわけですね。

ちょっとイメージしてもらうとわかりやすいと思うのですが、例えばこれまで何十日も筋トレしてきたとすれば、その記録を途絶えさせることなく今日も筋トレするような気がしないでしょうか。

一方で行動できないときはどうかというと、今度は行動できなかったこと自体が僕たちの行動を押し留めます。

昨日もできてないし、一昨日もやらなかった。そんな前提は今日の行動もやはり「やらない方向」へと選択させます。

昨日の怠惰は今日の怠惰を呼び、今日の怠惰は明日の怠惰を生む、みたいな。

本当はやった方がいいと分かっているけど、これまでもやってないし、今日もいいかなって思ってしまいます。明日から本気出せばいいですしね(出さない)。

行動できない”沼”から抜け出す鍵は「流れをコントロール」すること

こういった行動のメカニズムは「確立操作」と呼ばれる概念で説明することができます。今日行動した・しなかったという結果に、どれ程のメリットがあるのか、という点がポイントです。

何日も継続していたという前提の下での「今日行動した・しなかった」という結果は、ずーっとサボっていたという前提の下でのそれと明らかに影響力が異なります。

何日も継続していたのであれば、行動することには継続日数が伸びるという結果が付随しますし、行動しないことには継続日数が途絶えるという結果が付随します。この場合は、行動することの方がより大きなメリットが得られます。

一方、ずーっとサボっていたのだとしたら、行動することには大した結果が付随しませんし、より問題なのは行動しないことには継続日数が途絶えるという結果も付随しません。行動しないままでいても大した問題はないんですね。

このように、僕たちのこれまでの自分の行動は、僕たちのこれからの行動に影響を与えます。行動によっていい流れを作れれば、そのいい流れに沿って行動しやすくなりますし、悪い流れを作ってしまうと、その流れに邪魔されて行動するのが難しくなります。

つまり、行動できないでいる状態にハマっているとしたら、自分のこれまでの行動によって「悪い流れ」を作ってしまっているということです。

では、どうすれば「悪い流れ」を断ち切り「いい流れ」を再構築できるのでしょうか。答えは次の3つのステップになります。

  1. 現状を認識する
  2. 流れを変える可能性のある行動を選択する
  3. その行動を実行する

ステップ1:現状を認識する

現状認識とは、自分の行動の状態について可能な限り客観的に認識することです。

何となく行動できないでいるとは感じているかもしれませんが、僕たちは意外と現実から目を背けています。認識の仕方が曖昧なんですね。

一体、何日行動することを放置してしまっているのか、その結果、自分のパフォーマンスがどの程度低下しているのか。そういった客観的な情報を認識することから始めましょう。

このステップの鍵となるのは「記録」です。行動についての記録を取ることができていれば、自分がどれだけマズイ状態に陥っているかは一目瞭然です。

もっとも、記録を取ること自体がハードルが高いかもしれませんが、ある程度コツを押さえて習慣化しておけば、さほど難しくはなくなりますし、記録を取る負担も極めて低くなります。

ステップ2:流れを変える可能性のある行動を選択する

現状認識ができたなら、今度は現状の流れを変える可能性のある行動を選択します。何をやるか決める、ということですね。

ただ何をやってもいいかというとそうではなくて、流れを変え得る行動であることが大切です。目的を再確認したり、スモールステップの基準を作ったり、ダラダラすることに時間制限を作ったり、やらざるを得ない状況に身を置いたり、新しい環境を作って刺激を受けたり…。

流れを変えるかもしれない行動はたくさんあります。その中から、いま実行できそうなものを選択しましょう。

ポイントは行動しないことよりも、行動することのメリットを強調されるようにすることでしょう。

例えば、なぜそれをやろうとしてたのか目的を問うことによって、忘れかけていた行動の先にある恩恵を再認識できるかもしれません。その結果、目的のためならば行動することを選ぶようになったとすれば、そのアプローチは上手くいったといえます。

あるいは、誰か知人に行動することを約束したことで、約束を破るよりは…と行動することを選ぶようであれば、その工夫も上手くいったといえます。

気持ちの盛り上がる音楽をかけて、それで行動することを選ぶことができたのであれば、それもOKです。

流れを変える方法はたくさんあります。

ステップ3:その行動を実行する...そして、その真の恩恵は?

流れを変える手段を選択したら、それを実行して効果があるかを確認します。

難しいのは、どんな場合にも、誰にでも有効な万能の工夫はないという点。今の状況、そしてあなただからこそ効く工夫は何かを発見しなければなりません。もしかすると何度か試行錯誤することになるかもしれませんね。

忘れないで欲しいのは、こういった行動科学に基づいた数々の工夫は実験であり、そして「開発」であるということです。

あなただからこそ有効に効く工夫を開発していく、というスタンスを持ってください。試行錯誤を繰り返すことになったとしても、有効な解決策を開発することができたなら、それはあなたが今後、必要であればいつでも使える選択肢になります。

場合によっては、その方法を応用して誰か別の人を助けることができるようになるかもしれません。

何より重要な恩恵は、問題を解決する方法を開発することができたという経験でしょう。解決方法を開発する技術は、今後発生するであろう様々な行動の問題に対して、自分が無力でないことを示すものです。

問題のない人生はありません。僕たちは常に何らかの行動の問題に直面します。であるならば、それに対処することができるという自信は、いったいどれ程の希望を僕たちに与えてくれるでしょうか。

こういった行動科学のアプローチの真の恩恵は、ここにあると思います。