行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

現実逃避で行動が遅くなるなら「強制力」と「行動コスト」を工夫しよう

気の重い仕事があると、僕たちはついつい現実逃避をしてしまいます。
しかも現実逃避によって状況が更に悪化するため、もっと現実逃避しやすくなるという悪循環が生じてしまいます。

何とかこの悪循環から抜け出したいわけですが、良くやってしまいがちな間違いが「自分の内面を見つめ直し、物事の捉え方・感じ方を変えることで、行動を変える」という手法です。
この方法は感情にポジティブな変化が起きるので、現実逃避の問題が解決したと思い込みがちです。

しかし、行動の原因には全くアプローチできていないため、問題は解決していません。
現実逃避から抜け出すためには、現実逃避の悪循環をブレイクするための自分なりの行動パターンを作っておくといいでしょう。
そのためには強制力を活用できると便利です。

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気が重くて現実逃避を繰り返す悪循環

気が重い仕事があって、どうにも現実逃避が止まらないことがあります。

エピソード1:〆切が迫っている4つの仕事

その週は4つの仕事で〆切を抱えていました。
残りの時間を考えると、どうにも厳しいです。
月曜日からフル回転で頑張った方がいいと分かっていました。
しかし、やればすぐ終わるというわけではないため、少々気が遠くなるというか、圧倒されるというか、そんな感覚です。
ふと気づくとスマホで将棋ゲームを立ち上げて対戦を繰り返していました。

エピソード2:気の重いクレームのメール

朝メールチェックしてみると、なにやらクレームのメールが来ていました。
先方はかなりお怒りのようで、厳しい言葉が並んでいます。
これはすぐにでも返信しなければ・・・と思うものの、状況的に相手の求めに応える返事を書くことができません(ごめんなさいと言うしかない)。
返信したらもっと厳しい内容のメールが返ってくるかも・・・と不安が頭をよぎります。
もうちょっと上手い返し方を考えて、明日返すことにしよう。
そして翌日、1日空けてしまったことでますます返事を返しにくくなってしまいました。

現実逃避の構造

スマホの将棋ゲームも、返信を明日に延ばすことも、どちらも現実逃避です。
現実逃避の特徴は、逃避した瞬間は気持ちが楽になるものの、しばらく経つとより厳しくなった状況に直面して頭を抱えることになる、というものです。
そしてより厳しくなった状況は、更なる現実逃避を促すことになります。

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気の重い行動と現実逃避の悪循環

現実逃避は「嫌子消失の強化」

現実逃避を行動分析学の言葉で解説すると「嫌子消失の強化」となります。
嫌子というのは僕たちの「避けたい刺激」のことで、つまり嫌子消失とは「避けたい刺激が無くなる・減る」ことを意味します。
行動することで避けたい刺激が無くなるのであれば、その行動にはメリットが伴います。
故にその行動は繰り返しやすくなります。

気の重い仕事は嫌子なので何とか消失させたいが・・・

で、気の重い仕事というのは僕たちにとって「嫌子」として機能する可能性があります。
嫌子 ー 避けたい刺激は消失させたいですから、選択肢は二つになります。

  1. とっとと片付けることで、仕事という嫌子を消失させる
  2. 現実逃避によって一時的に仕事という嫌子を視界から消す

とっとと片付けることができれば、当然それがベストです。
しかし、いざ仕事に取り組んでも、なかなか片付かないことがあります。
ちょっとずつ作業を進捗させていって、ある程度蓄積したところで意味のある成果になる。
そんな仕事の場合は、早く片付けたくてもなかなか片付けられません。

また、その仕事に何か嫌なことが伴う場合も厄介です。
冒頭の例に挙げたクレームメールの対応などが該当しますが、仕事自体も嫌子だけど、仕事を進めると別の嫌子も現れてしまう。
この場合、進んでも退いても「避けたくなるような何か」が待っていて、どうにも動きづらくなります。

もっとも手軽な手段が現実逃避となる

このように仕事をすぐに片付けることが困難な場合、嫌子を消失させる最も手軽な手段が現実逃避になるのです。
だから僕たちはついつい気の重い仕事から逃避することを繰り返してしまいます。
後でもっと気が重くなることを何度も経験しているのに。

これが現実逃避から生じる悪循環です。

感情を行動の理由にする悪習慣から脱出

感情を変えることで行動を変えようとするアプローチ

さて、このような悪循環から抜け出すために、僕たちは様々な努力をします。
そのうちの一つが「自分を変える」アプローチです。
物事への捉え方、感じ方を変えることで、行動を変えようとします。

このアプローチの場合、成否の基準となるのは感情です。
上手く物事への捉え方を変えられれば、それに伴い感情が変わるので、行動しやすくなるのではないか、という考えです。

しかし、この感情を基準としたアプローチは、少なくとも行動についてはあまり有効に働かないことがあります。
そのことをお伝えするために、少し行動と感情について解説します。

感情を行動の理由にするのはナンセンス

感情はいま現在の状況から生じている

感情は「いま現在の状況」に反応して生じるもの。
未来や過去のことを考えて気が重くなったとしても、それを考えていること自体は「いま起きていること」です。
感情は常に現在の状況から生じています。

その感情を変えようと思うと、方法は2つです。
現在の状況そのものを変えるか、現在の状況に対する解釈を変えるか。
まぁ、それはどちらでもいいのです。
何故なら行動にはあまり関係がないから。

感情は「結果」であり「原因」ではない

感情というのは「結果的にそうなるもの」であり、何かの原因ではありません。
当然行動の原因でもありません。
なのに僕たちはよく感情と行動とを結びつけて捉えます。
やる気がないから行動できないとか、憂鬱なので行動したくないとか。

このようなその時の感情で物事の良し悪しを判断してしまう傾向を「感情ヒューリスティック」といい、しばしば僕たちの意思決定を歪めてしまいます。
もし感情ヒューリスティックについて、もう少し詳しく知りたければ下記の本を読んでみてください。

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

こういうのは大抵逆なのです。
行動を始めたらやる気が出てきた、行動できたら憂鬱じゃなくなった。
感情は結果なのでそんなものなのです。

というわけで、まず認識しておいてもらいたいことは「感情を行動の理由にするのはナンセンス」だということです。
行動するために感情が変わるのを待つ必要はありません。

行動の悪循環から抜け出す本当のきっかけは?

少し話をまとめると、現実逃避の悪循環から抜け出すためのよくあるアプローチは、物事への捉え方・感じ方を変えることで行動を変えようとします。
そういった手法は、容易に僕たちの感情を変化させます。
チョロいです。
そして感情が変わることで、僕たちは悪循環から抜け出せたと勘違いしてしまいます。

しかし、本当の悪循環からの脱出は、感情よりも先に行動が変わるのです。
感情は行動の原因ではありません。
感情が変わらなくても、行動は変えられます。
行動が変われば状況が少しずつ好転し、更に行動しやすくなっていくのです。
これが現実逃避の悪循環から抜け出すための本筋です。

感情に左右されずに行動するパターンを持とう

大切なは「感情がどうであっても」機能的な行動ができるかどうかです。
感情はポジティブでもネガティブでもいいのです。
感情に振り回されることなく、一定のパフォーマンスで行動できるようにしておくこと。
そんなパターンを持っておくことです。

行動に強制力を持たせるパターン

現実逃避を抑制するパターンを持つ

感情に関係なく行動できるようにするには、強制力を上手く使うといいでしょう。
現実逃避が問題となっているのであれば、現実逃避ができない環境を作るといいです。
この場合、アプローチは2つです。

  1. 物理的に現実逃避が実行できない状況を作る
  2. 現実逃避を実行すると嫌なことが起きる状況を作る

現実逃避する際に使用している道具などがあれば、それに手が届かない場所で仕事をするといいでしょう。
スマホを使ってゲームをしてしまうのであれば、スマホを家において出かけたり、スマホを別室に置いておいたりします。
それだけでスマホを使った現実逃避行動は、かなり抑制されることでしょう。

2のアプローチのように、現実逃避を実行すると嫌なことが起きるようにするのも有効です。
ついつい動画を観てしまうようであれば、静かな喫茶店や図書館で仕事をすれば、音を出して動画をみたら周囲のひんしゅくを買うことでしょう。
かなりやりづらくなるはずです。

本来やるべき行動を促すために行動契約を使う

現実逃避を抑制するだけでなく、本来やるべき行動を促すためのパターンも持っておくといいでしょう。
ここでもやはり強制力が活用できます。

一つはこのブログで良く出てくる「行動契約」です。
負のインセンティブ、つまりペナルティを活用したやり方です。
どのような行動をいつまでに実行するかを約束し、その通りにできなかったらペナルティが生じるというもの。
かなり強力な方法で個人的にはお勧めです。

行動契約について詳しく知りたい方は、下記の記事をお読みください。

www.behavior-assist.jp

また行動契約を実践するにあたってはStickK.comというWebサービスがお勧めです。
下記の記事で使い方を解説しました。

www.behavior-assist.jp

本来やるべき行動を促すために社会的ネットワークを活用する

もう1つ、本来やるべき行動を促す強制力を持つものがあります。
それが社会的ネットワークと呼ばれるもの。他人の影響力を上手く活用すると、行動をコントロールしやすくなります。

他人の影響力というのは、例えば次のようなものです。

  • 誰かに約束したり宣言することによって行動を促す。
  • 他の人が居る場所で仕事をすることで、他人の視線を使って行動を律する。例えば、バイトを雇うことで仕事をさぼりにくくしたり、打ち合わせをしながら一緒に作業してみたり。
  • 促したい行動を、頻繁に実行している人達のコミュニティに入る。例えばジョギング好きのコミュニティに入ると、ジョギングという行動に対してポジティブなフィードバックがかかりやすくなり、反対にジョギングをサボるとネガティブなフィードバックがかかりやすくなる。

今の時代は良くも悪くも他人の影響を受けやすくなっています。
であるなら、機能的に活動するために上手く活用できるといいですね。

行動のコストを低くする

スモールステップで小さく分解した仕事にフォーカスする

強制力を使う方法が難しいという場合は、行動のハードルを下げることで、少しでも前に進むことを考えてみましょう。
スモールステップ&スモールタイムです。

スモールステップは聞いたことがあると思いますが、やるべき仕事を分解し、ごく簡単に実行できるレベルまで行動を小さくすることです。

クレームのメールに返信しなければならないのであれば、まずは送信しなくて良いので文章を書くことをやってみます。
それで文章が書けたら、今度は送信ボタンを押すことに集中してみるわけです。
今からやる小さな仕事にフォーカスを当てるのがポイントです。

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スモールタイムで時間を限定して少しだけ頑張ってみる

スモールステップだけではなく、スモールタイムという考え方も活用してみてください。
これもよくある方法。
気が重い、やる気が出ないと感じているなら、今から15分だけ頑張ってみるというのを試してみてください。
5分でもいいです。

本記事で「行動が先、感情は後」と書きましたが、少しでも行動することで感情が変わることもあります。
行動することで、気の重さややる気の無さから脱却できたという経験ができるといいですね。

スモールステップとスモールタイムを組み合わせよう

スモールステップとスモールタイムは、組み合わせて使ってみるといいです。
例えば、「いまから30分、この小さな3つのToDoを終わらせることにチャレンジしよう」といった感じです。
もしかしたらその30分が、現実逃避の悪循環をブレイクするきっかけとなるかもしれません。

まとめ

なかなか終わらない仕事や気の重い仕事があると、ついつい現実逃避をしてしまいがちです。
それで一旦は気が楽になるのですが、しばらく経つと状況が悪化して、更に気が重くなってしまいます。
ますます現実逃避してしまうようになり、悪循環が始まります。

これに対するよくある対処法は、物事への捉え方感じ方を変えることで、現実逃避しない自分になろうとすることです。
このような手法によって僕たちの感情はスイッチのように簡単に切り替わります。
感情が変わったことにより、現実逃避の悪循環から抜け出せたように思えます。

しかし、それは勘違いです。何故なら感情と行動は殆ど関係がないからです。
感情を変えても行動が変わるとは限りません。
寧ろこれは因果が逆で、行動を変えることによって、結果的に感情が変わることがあるくらいです。

ですので現実逃避の悪循環から抜け出すためには、行動そのものへアプローチしなくてはいけません。
本記事では強制力を活用して現実逃避行動を抑制したり、本来やるべき行動を促す方法をお伝えしました。
またそれに加えて、スモールステップ&スモールタイムによって、行動のハードルを下げる方法をお伝えしました。

本記事を参考に、現実逃避の悪循環をブレイクするための、自分なりのパターンを作ってください。