行動科学実践の手引き。

人が自由に行動し、自由を謳歌するために、行動科学(行動分析学)の知識と実用的なノウハウを記す。

意思の力に頼らずにセルフコントロールを実現する行動改善の枠組み

セルフコントロールと聞いてどんな印象を持つでしょうか。多くの人は意思の力で自身の衝動性を抑制し、行動を制御することをイメージするかと思います。

しかし、その理解のままではセルフコントロールを実現することは難しいのです。

セルフコントロールを可能にするためにも、ひとまず行動科学の視点から「セルフコントロール」なるものの正体を読み解いていきます。

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”セルフコントロール”の正体とは?

衝動性とセルフコントロールを理解する

セルフコントロールと対になる概念が「衝動性」です。

衝動性とは、将来の大きな報酬よりも、目先の小さな報酬を優先してしまうことで、衝動性に身を任せてしまうと結果として将来の大きな報酬を逃してしまうことになります。

例えばダイエットで衝動性が優位になっていると、目の前のケーキ(目先の小さな報酬)を食べ続け、痩せるという大きな報酬を得ることはできなくなります。

あるいはブログを毎日更新しようとしている場合でも、ついついスマホゲームで遊ぶ(目先の小さな報酬)ことを優先した結果、ブログのアクセスアップといった大きな報酬を逃してしまうことになります。

セルフコントロールが効くと、衝動性を抑制し、将来の大きな報酬を獲得するための選択が可能になります。ダイエットに成功したり、コツコツ書き溜めたブログのアクセスが増えたりするわけです。

意思の力ではセルフコントロールの改善はできない

では、そのセルフコントロールを実現するにはどうすればいいでしょうか。

そもそも衝動性が優位になるのは自然なことです。行動の法則に従えば、すぐに確実に得られる報酬の方が、行動に対して大きな影響力を持ちます。

自然界で生きることを考えれば、この行動の法則は実に理に適っています。自然界で生きる動物にとって、目の前の食事の機会をスルーして、将来のための取っておこうなどと行動していては生き残るのは難しくなるでしょう。

そしてこの行動の法則は文明社会に生きる人間にとっても、依然として機能し続けているものなのです。

このような前提に立てば、何の工夫もなくただ意思の力だけでセルフコントロールを実現しようとすることは無謀だと分かるでしょう。

行動を変える工夫がセルフコントロールを実現する

行動分析学という心理学の創始者であるB.F.スキナーは、セルフコントロールについて次のように述べています。

自ら行う制御行動によって自分自身の被制御行動を変えるまたは維持する過程

分かりやすく翻訳すれば次のようになります。

  • 何らかの工夫をすることによって、自分自身の行動を変える、または維持すること

ここに至り、セルフコントロールを実現したい僕たちが持つべき問いも変わります。

  • セルフコントロールを実現するために、どんな工夫をすればいいのだろうか?

セルフコントロールの第一歩はターゲット行動の決定

変えるべき行動を「具体的」に決める

セルフコントロールに限らず、何かの行動を変えたいなら最初にやることは決まっています。

  • 変えるべき行動を具体的に決めること

行動を具体的に決めるとは、おそらくあなたがイメージしているよりも徹底する必要があります。

ダイエットするとか、節約する、勉強するといった表現は一般的には「行動である」と受け入れられるかもしれませんが、ここでいう「具体的行動」には当てはまりません。具体的行動とは次のようなものです。

ダイエットに関連した行動であれば「おやつを食べる」「10回スクワットする」「食事内容のメモを取る」などです。

節約なら「買い物をしたらレシートをもらう」「今週の食費の予算を決める」「貯金箱を買う」などです。

聞いただけでそれを実行している場面がイメージできる程度には、具体的に表現しましょう。ここまでできて変えるべき行動がはっきりします。

行動の連鎖を意識して真に変えるべき行動を見極める

しかし、変えるべき行動を決めるのは思いの外、難しいことです。なぜなら真に変えるべき行動は、僕たちの注目している行動とは違うかもしれないからです。

例えば実際にあった例として、僕のダイエットを取り上げてみましょう。

当時、おやつを食べすぎていた自覚があり、なんとかおやつを食べることを抑制しようとしていました。当然、変えるべき行動は「おやつを食べる」だと考えます。

ところがよく分析してみると、そもそも家におやつがあるのは何故か?という問いに辿り着きます。当たり前ですが、それはおやつ買うからです。

スーパーなどで買い物をするときについつい買い込んでしまうので、家におやつが豊富にある状態になり、おやつを食べるという行動が起きやすい環境になっていたのです。

つまりこの場合、変えるべき行動は「おやつを買う」となるのです。これは「おやつを食べる」という行動を変えよう!と単純に飛びついたのでは得られない答えです。

記録を取ることで分析のための情報を得る

このような分析をするためには、行動に関する情報が必要になります。

情報を集めるには記録を取るのがベストです。仮でいいので変えるべき行動を決定したなら、その行動についての記録を取ってみましょう。

可能であれば行動する前後の状況についての簡単なメモもあると、分析のための有効なヒントになります。以下は記録の一例です。

8/1 13:00 プリンを2つ食べた。昼食後。プリンは前日にスーパーでまとめ買いしたもの。

こういった記録から真に変えるべき行動を見つけ出します。それができれば、行動を変えることの8割は成ったようなものです。

基準なくして自己評価なし

何となくで評価しても意味はない

次に自己評価について考えてみます。

僕たちは自分のセルフコントロール能力について、どう自己評価しているでしょうか。この記事に関心がある人は、おそらく自分のセルフコントロール能力を低めに捉えているのではないでしょうか。

しかし、なぜセルフコントロールの能力が低いと分かるのでしょう。

なんとなくだったり、パッと思いつく記憶をもとにしていたり、とても高いハードルと比べての評価になっていることが多いはずです。

予め基準があるからこそ、評価することができる

次のことを覚えておいてください。

  • 何かを評価するためには、事前に基準を決めておく必要がある

例えば「おやつは1日1個までにする」という基準があるとしましょう。にもかかわらず、おやつを2個食べてしまったのなら、セルフコントロールに失敗したと評価することは可能です。

基準があるからこそ評価が可能である、ということなのです。それ以外の評価は曖昧で主観的な思い込みでしかありません。

どの程度の基準をクリアできるか = 現在のセルフコントロール能力

では僕たちの今現在のセルフコントロールはどの程度なのでしょうか。それは次の問いに置き換えられます。

  • どの程度の目標(基準)であればクリアすることができるのか?

僕たちがクリア可能な基準が、僕たちの持つセルフコントロールの能力です。おやつを1日3個以内が可能であれば、その範囲内でのセルフコントロールには成功するということです。

評価が機能すれば工夫の効果を知ることができる

このような自己評価の基準を持った上で、セフルコントロール能力を向上させるための工夫をすればいいのです。

おやつを買う行動を抑制するために、例えば空腹時に買い物にいくのではなく、食後のお腹が満ちたときに買い物にいくのはどうでしょうか。

あるいは必要最低限の予算しか持たずに買い物にいくのはどうでしょうか。

あるいは買い物かごにいれたおやつを棚に戻すことができれば、その金額を「好きなものを買っていい貯金」として確保するのはどうでしょうか。

様々な工夫が考えられますが、これらによって「おやつを1日2個以内」にすることができたのであれば、セルフコントロールがより上手く機能していることになります。

セルフコントロールを実現する枠組み

行動を決めて記録を取ること、基準を定めること、そして意思の力に頼らない工夫をして、再び記録をとって検証する。

これがセルフコントロールを実現するための枠組みです。

尚、意思の力に頼らない工夫の仕方については下記の記事が参考になりますので、こちらも読んでみてください。

www.behavior-assist.jp